睡眠薬を飲むと死亡リスクが30%増になる理由 循環器系疾患の発症、重症化と関係か

ドクター新潮 ライフ

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 何を食べると健康寿命が縮む、あるいは延びるのか。それを分単位で算出した稀有(けう)な研究論文がある。2021年、「ネイチャー・フード」誌に掲載された、米ミシガン大学の研究者グループによる論文だ。この論文によると、ホットドッグを一つ食べるごとに健康寿命が36分縮むのだという。しかし、体にダメージを与えるのは食べ物だけではない。睡眠薬を服用していると死亡リスクが飛躍的に上がるという衝撃の研究結果が話題となっているのだ。

 今や5人に1人が悩んでいるともいわれる不眠症の治療に欠かせない睡眠薬。だが、睡眠薬を使用している人の死亡リスクは、使用していない人より高い、というデータがあるのをご存じか。佐賀大学医学部附属病院薬剤部部長、教授の島ノ江千里氏、副部長の祖川倫太郎氏らが昨年9月に発表した研究結果で、対象となったのは多施設共同コーホート研究に参加した日本人9万人超。「がんの既往がある人」などは除外され、残り約6万人が解析対象者となった。

「解析対象者の中で週1回以上睡眠薬を服用していると答えた人は約4%で、服用していない人に比べて、死亡リスクは約1.3倍、との結果となりました」

 島ノ江氏はそう語る。

「性別、年齢で分けると、男性が1.51倍で女性が1.09倍、60歳未満が1.75倍で60歳以上が1.16倍。女性より男性の方が、60歳以上より60歳未満の方が死亡リスクは高い、との結果になりました。また、服用している方は服用していない方に比べ、循環器系の死因が多いことも分かりました」

なぜ男性の方がリスクが高くなる?

 調査期間の2004年から14年に日本で不眠症治療に用いられていた睡眠薬は、主にベンゾジアゼピン系(BZ系)や非BZ系といわれるものだった。

「BZ系については、依存性や耐性による長期・高用量の服用が循環器疾患の高い死亡率に影響した可能性がある。この研究では、『睡眠時無呼吸症候群』の既往について調べていないが、『男性』『BZ系の薬の使用』『アルコール摂取』『肥満』は循環器疾患につながる睡眠時無呼吸症候群のリスク。過食、飲酒、ストレスなどが多い中高年の日本人男性のライフスタイルに睡眠薬の使用が加わり、循環器系疾患の発症や重症化につながったことも考えられる。性別、年齢については、そもそも中高年の日本人男性は働き盛りでさまざまな負荷がかかる。長時間勤務や仕事の多忙さや、ストレス。そうしたことが影響した可能性があると考えています」(同)

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