要人警護と警察庁長官…危機管理の舞台裏で何が起こっていたのか

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 10月で政権発足から2年、そして来秋には総裁選――岸田政権がいつ、解散・総選挙に打って出るか、政界の関心は高まっている。事情は警察庁も同じで、その最大の課題は「要人警護」だ。歴代長官と警護を巡るドラマを振り返りながら喫緊の課題を検証する。

鈴木長官を震撼させた「政界のドン」襲撃事件

「治安の根幹を揺るがしかねない憂慮すべき事態。銃器摘発は警察の緊急課題だ」

 1992年4月4日、鈴木良一警察庁長官(当時)は全国の警察本部長を急遽招集し、こう叱咤した。2週間前、「政界のドン」と謳われた金丸信自民党副総裁が狙撃されるテロがあったことを受けた緊急会議の場である。

 警察庁保安部長(現生活安全局長)として銃撲滅の陣頭指揮を執っただけに、鈴木長官の怒りは心頭に発していた。怒りの矛先は各警察本部トップだけでなく、金丸氏の身辺警備をしていたSP(セキュリティー・ポリス)にも向けられていた。

 事件は3月20日午後5時55分頃に発生。栃木県足利市の市民会館大ホールで次期衆院選出馬予定者の応援演説を終えた直後に、右翼の男が拳銃を構えて演壇の下まで駆け寄り、実弾3発を発射した。1発は演壇に当たり、2発はそれた。その場で殺人未遂などの容疑で現行犯逮捕された男は、動機を「北朝鮮への土下座外交」と供述した(90年に金丸氏が訪朝したことを指す)。

 筆者が新人記者として産経新聞甲府支局に赴任した前後の出来事だった。地元山梨選出で常に全国ニュースの中心にいた金丸氏の後援会事務所は支局から徒歩5分程の場所にあった。事件後 しばらくの間、警察車両が停車したままの物々しい雰囲気で、7月20日に甲府入りした金丸氏の“警護”もかなり厳重だったことを今も鮮明に覚えている。それだけインパクトのあるテロ事件だった。

 SPは和製英語で「Security Police」の略語。首相ら要人を、都道府県境を越えて身辺警備する私服警察官で「SP」と記された胸のバッヂは警視庁オリジナルの胸章。だからこのバッヂをつけているのは警視庁警備部の要人警護専門部署「警護課」の課員だけだ。

 警視庁SPの資格は、柔剣道の有段者で拳銃の上級者。女性もいるが男性に限れば警視庁の警察官採用基準が身長160センチ以上のところを173センチ以上。警視庁本部庁舎16階の警護課を取材で訪れた際、デスクワーク中の課員までもが全員あまりにも大柄で、強い圧迫感を覚えたことが印象に残る。

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