「南海トラフ地震」の発生確率、本当は「20%」? “えこひいき”がまかり通る地震予測を専門家が「百害あって一利なし」と断じる理由
「元気なナマズを飼ったほうがいい」
ところが、1995年に阪神・淡路大震災が発生。不可能な予知にかまけ、東海地方に偏った防災対策を採った結果、“関西には地震が来ない”との誤解と油断が生まれて被害が拡大した。当時の科学技術庁長官・田中真紀子氏は「予知に金を使うぐらいだったら、元気のよいナマズを飼ったほうがいい」と言い放ち、「地震予知推進本部」を廃止。現在の「地震調査研究推進本部」(地震本部)を設立させた。とはいえ、それは看板のかけ替えに過ぎず地震ムラは残った。
地震本部は、予知から統計的な予測である「地震予測」にかじを切ったが、甚大な被害をもたらした2011年の東日本大震災では、予測とは場所も規模も全く違う想定外の地震が発生。地震ムラは今度こそ存続の危機に立たされるはずだったが、東京電力福島第一原発事故に注目が集まり、社会からのおとがめはなかった。
そして、「明日起こる」とも言われた東海地震説提唱から50年近くが経った現在。政府は東海地震に、東南海と南海地震の地域を合わせた南海トラフ地震を警戒するようになった。だが、2013年に発表された70~80%という地震発生確率の裏側を取材すると、予知時代から続く東海地方の「えこひいき」体制を維持したい勢力の思惑が見えてきた。
専門家は「科学的に問題がある」と猛批判
当時の議事録を調べると、全国の確率は過去の地震の発生間隔を平均して割り出すという計算式が使われているが、南海トラフ地震だけは「時間予測モデル」という特別な計算式が使われていることが分かった。南海トラフ地震の場合、前者では20%程度だが、後者だと70~80%まで数字が跳ね上がる。このモデルは、01年に発表された確率評価から採用されたが、当時はあまり批判されなかった。
しかし、13年評価では、地震学者たちから「科学的に問題がある」とモデルに批判が殺到(モデルの矛盾については拙著『南海トラフ地震の真実』で詳しく解説している)。一度はモデルを不採用にする方向でまとまった。ただ、それは南海トラフ地震(東海地震)の発生確率が20%程度まで急落することを意味する。地震本部が、行政担当者や防災の専門家(行政・防災側)などで作る政府の委員会も交えた会議を開くと、猛烈な反対の声が上がった。
地震学者たちは確率が低くなると「地震は来ない」と勘違いされる懸念から、安全側に立って高い確率と低い確率を“両論併記”する案を提案した。だが、行政・防災側の委員はそれすらも「確率を下げると『税金を優先的に投入して対策を練る必要はない』『優先順位はもっと下げてもいい』と集中砲火を浴びる」と反対した。
また別の委員も「何かを動かすときにはまずお金を取らないと動かない。これを必死でやっているところに、こんな(確率を下げる)ことを言われたら根底から覆る」と確率低下が予算獲得に影響すると主張。「低確率を隠すべきではない」という意見も多数あったものの、行政担当者らの発言の影響力は強く、両論併記案は消えていった。
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