「南海トラフ地震」の発生確率、本当は「20%」? “えこひいき”がまかり通る地震予測を専門家が「百害あって一利なし」と断じる理由

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巨額のカネが舞い込む「地震ムラ」

 30年以内に「70~80%」の確率で発生するとされる南海トラフ地震。だが、この確率が、特別な計算式を使うことで“水増し”されていることを多くの人は知らないだろう。実際、他の地域で用いられる一般的な計算式に当てはめると、南海トラフ地震の発生確率は「20%」まで低下してしまうのだ。政府はこうした事実を国民から隠すかのように扱ってきた。科学をないがしろにする“えこひいき”は、なぜまかり通っているのか――。

 科学ジャーナリスト賞受賞の新聞連載を書籍化した、新刊『南海トラフ地震の真実』(東京新聞刊)の著者で、東京新聞社会部科学班・小沢慧一記者が、自著の内容をもとに地震ムラの不都合な真実に迫る。

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 駿河湾で大地震が明日、起こったとしても不思議ではない――。事の発端は、この言葉で知られる「東海地震説」が、東海地方の人々を震撼(しんかん)させた1976年までさかのぼる。

 当時の福田赳夫首相や山本敬三郎静岡知事は、「地震に備える法律が必要」と働きかけ、東海地震説の提唱からわずか2年で大規模地震対策特別措置法(大震法)を成立させた。その結果、地震防災対策強化地域に指定された自治体には巨額の補助金が下り、静岡県は2020年までの約40年間で計2兆5119億円もの対策費を投じてきた。旧運輸省、旧通産省、旧郵政省、旧建設省、旧科学気技術庁などに下りた地震予知の調査や研究のための予算は、東海地震説提唱前の1969~73年は約30億円だったのが、大震法成立後の79~83年には約300億円に増え、その後も年々増加していった。研究者たちは“予知研究”の名のもとに多額の研究費を手にし、その差配は政府の委員に選出された地震学者たちに委ねられ、「地震ムラ」が形成された。

 大震法の最大の問題点は、発生数日前に地震を言い当てる「地震予知」が科学的に証明されておらず、予知を前提とした防災対策を定めていることだ。もちろん、予知ができないことを地震学者たちは知っていた。しかし、地震学に対する期待が社会にある限り研究費の支援は続く、という思惑と打算があったのか、予知が可能な“ふり”を続けてきた。

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