オリックスが三連覇目前!「80億円補強」でも沈没したソフトバンクとはあまりに対照的すぎる“チーム編成”

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高校生・大学生重視のドラフト戦略

 近年のオリックスで大きく変化した点といえば、スカウティングである。前身の阪急時代から社会人出身の選手が多く主力になっており、ドラフトでは上位指名は、社会人の即戦力候補を多く獲得する傾向が強かった。

 しかし、2018年以降のドラフト1、2位をみると、高校生が6人、大学生が4人で、社会人は一人も指名していない。このなかには、前述した宮城や紅林、山下、頓宮ら、現在の主力選手が名を連ねている。

 高校生・大学生重視のドラフト戦略は、2016年のドラフト4位で、高校卒の山本由伸が、球界を代表するエースに成長させたという“成功体験”が大きく関与しているが、育成と同時に、ドラフトなどの編成における戦術と方針を抜本的に見直した面が大きい。

 筆者の分析では、オリックスは自チームで成功した選手を参考にして、彼らと似たような特性を持った選手を指名する方針をとっているようだ。例えば、2022年のドラフトで指名した斎藤響介(3位、盛岡中央)と日高暖己(5位、富島)は、あまり肘を使わないフォームで、山本由伸に共通した点がある。

 また、ブルペンを支える山崎颯一郎や本田仁海は、高校時代、体が細かったが、プロ入り後にフィジカル面が強化されたことで一気にボールのスピードがアップした。彼らに似たような特性がある山下も、高校2年まではかなり体が細く、3年になって体格が大きくなったことでスケールアップ。高校時代の最速は153キロだったが、プロ入り3年目で160キロに到達している。こうした成功例があったことが、斎藤、日高の獲得へ後押しとなったようだ。斎藤は、既に二軍戦で150キロを超えるスピードをマークするなど、順調に成長を続けている。

譲渡金でチーム強化の“好循環”

 一方、補強面をみると、吉田が抜けたことによる不安視する声は大きかったが、西武から森友哉をフリー・エージェントで獲得して、チーム全体で得点力の低下を防ぐことに成功した。森の獲得資金は、吉田のポスティング・システムによる譲渡金が大きな原資になっている。

 主力の移籍によって得た資金をしっかりチームの強化に繋げており、仮に、今後、山本由伸がメジャーにポスティングで移籍することになっても、そこで得た譲渡金を使って、新たなチーム強化に繋げるという“好循環”を生み出す可能性もあるだろう。

 さらに、球団側は、主力選手の流出阻止にすばやく行動している。今季、FA権を取得した若月健矢は、森とともに、女房役として投手陣を支える貴重な捕手だが、早くも、9月5日に残留を正式表明した。これほど早い時期に残留を表明する選手は非常に珍しく、フロントが選手との信頼関係を築き、上手く機能している証拠だといえるだろう。

 2010年代は、ソフトバンクが他球団の主力を獲得しながら、自前で選手を上手く育てて、黄金時代を築き上げたが、現在は、選手の世代交代が進まずに苦しんでいる。冒頭でも触れたように、昨年オフには大量の資金を投下してチーム強化を図ったものの結果には繋がっておらず、昨季限りで退団したデスパイネをシーズン中に再び獲得している点を見ても、編成が上手く機能しているとは言い難い。オリックスのチーム編成は、ソフトバンクのそれと比べても、一歩も二歩もリードしているというのが現状だ。

 ただ、ソフトバンクの例を見ても分かるように、“常勝軍団”を維持することは簡単なことではない。オリックスが、パ・リーグ三連覇に満足することなく、有効なチーム強化を継続できるのか。その点にもぜひ注目してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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