【京アニ事件初公判】犠牲者36人に「まさかこんなにたくさんの人が亡くなるとは…」未必の故意とでも言いたげな青葉被告の発言を専門家はどう見たか

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やまゆり園事件との違い

――2016年7月に19人が殺された津久井やまゆり園(神奈川県相模原市)の植松聖死刑囚のように1人ずつ順番に殺害したのではなく、青葉被告の犯行は一瞬の行為でした。

園田:確かに青葉被告の場合、会社の入り口でガソリンを撒いて火をつけた、というそれだけの1つの行為です。全体が殺人罪として観念的競合(1つの行為が複数の罪に触れること。重い方の罪で処罰される)で住居侵入など他の罪は全体としてまとめて処罰される。何十人死んでも同じです。刑を科す場合も1つの罪に対してです。新幹線の置石の例も、大勢が死んだとしても一罪で1つの殺人罪となります。

 これに対してやまゆり園の事件は、住居侵入してから1人ずつ殺しています。これは「牽連犯」とされます。住居侵入罪で建物に入って窃盗をする場合、牽連犯となり、窃盗という法定刑として重い方の罰が適用されます。押し入って殺人した場合ももちろんです。やまゆり園の犯罪行為は一つではありませんが犯行全体が「牽連犯」として一罪になります。

 これに対して京都アニメーションの場合は全体が「観念的競合」として一個の犯罪となります。例で挙げた一発の弾で2人死んでしまったケースも行為は一つなので観念的競合となり、一罪として扱われます。

過失致死罪は適用されるのか?

――ちょっとした犯罪や悪戯をしたつもりが、思わぬことが起きて予想外の惨事になることもありますね。

園田氏:例えば、ちょっと悪戯してやろうと思って愉快犯が非常ベルを鳴らしたら、慌てた社員が一斉に非常階段に押し寄せて群衆雪崩で何人も死んだ、といった場合。これは人が死ぬようなことはまったく想定できなかったといえます。ですから、殺人ということにはならずに、過失致死罪になります。

 しかし、青葉被告の行為は京都アニメーションの会社の入り口でガソリンを撒いて着火するというような確定的な行為でした。36人が死ぬようなことにもなりかねない大変な危険性をはらんでいることは当然わかります。

 犠牲者数が青葉被告の予想以上に多かったとしても、元々の危険性が現実化しただけであり、全体が故意の殺人行為となるのです。したがって「こんなにたくさん亡くなるとは思わなかった」という法廷発言が本当だとしても、それをもって罪が軽くなるということにはなりません。

――今後の主な争点は、青葉被告の責任能力の有無と言われますが。

園田氏:青葉被告の妄想というのがどう判断されるかですね。例えば、彼が「京都アニメーションの社員の全員が地球を征服に来た宇宙人だと強く信じ込んでいて、社員を成敗とした」というような妄想なら、かなり責任能力に影響するかもしれません。しかし、実際は違います。自分が書いた小説を京都アニメーションの人に盗まれたとか、真偽はわかりませんが、現実的で具体的なことを語っているようです。ですから「妄想に取り憑かれているから責任能力なし」というのはかなり難しいでしょう。

――審理は平均20日といわれる裁判員裁判では異例の123日が予定され、12月に結審。判決は来年1月25日である。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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