【京アニ事件初公判】犠牲者36人に「まさかこんなにたくさんの人が亡くなるとは…」未必の故意とでも言いたげな青葉被告の発言を専門家はどう見たか

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「未必の故意」なのか?

 青葉被告が法廷で口にした「こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わなかった」という証言は、彼の刑罰にどう影響するのか。甲南大学の園田寿名誉教授(刑法)に伺った。

園田氏:犯罪というのは故意犯が原則です。故意は2つに分けられる。確定的故意と不確定的故意です。目の前の人を刺殺してやろうとして刺し殺せば確定的故意犯です。これに対して、鉄砲で1人を狙って撃ったら、もう1人にも当たってしまった場合、これは2人目の犠牲者については不確定的故意と言います。「未必の故意」などがそれですね。

 このほか、概括的故意というのがあります。群衆に強力な爆弾を投げ込むとします。10人が死ぬか20人が死ぬかわからないといったケースです。しかし、結果的に20人が死んだら20個の殺人になります。

 相手の心臓を突き刺して「まさか死ぬとは思わなかった」の抗弁は通りません。「生まれ変わると思った」などと強固に信じていれば、それは規範意識が正常でなく責任能力が問われますが。

 例えば、100人が死ぬかもしれないと思いながら新幹線の線路に置き石をして、結果的に1000人死んだとします。置き石の危険は認識しても、結果はわからない。この場合、500人でも1000人でも同じで故意犯となりますが、こういうケースは概括的故意です。

 客観的に危険と認識していれば、「1000人が死ぬと思っていなかった」は通じません。

事前調査の有無も関係

――青葉被告は犠牲者数が想定外だったとしています。「想定外」は罪を軽くする要因になりえるのですか?

園田氏:「こんなにたくさん死ぬと思わなかった」という発言が事実であっても、全く言い訳にはなりません。青葉被告は少なくとも会社の玄関でガソリンを撒き、火を付けることの危険性を認識していたはずです。たとえばマンションの貯水槽に毒を入れる。5人くらい死ぬと思ったのが20人死んだとなっても、15人の部分は想定外で過失罪になって罪が軽減されるわけではありません。

 他にも、青葉被告が京都アニメーションにはいつも10人くらいしか出社していないと思っていて犯行を実行したら、その日だけ、たまたまイベントがあって大勢出社していて巻き込まれたということもある。この場合は、彼の事前調査が焦点になります。彼が調査していて10人しかいないと思っていたのに、たまたま当日はもっと大人数がいたということなら、予想外の犠牲者の部分は過失致死罪と軽くになることもあります。

 実際は、青葉被告はそんな調査をしていたわけではない。そうなると概括的故意がすべて認められます。つまり36人全員に対しての殺人罪となります。

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