BRICS拡大の危うさ あまりにまとまりを欠いた国家連合と言わざるを得ない理由

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国際社会に影響を及ぼす政策は期待できない?

 今回の首脳会談のもう一つの議題は、米国の通貨覇権への対抗措置だった。

 首脳会議では、BRICS共通通貨の創設が議論された。だが、南アフリカ政府は、中央銀行を設立する必要があることから「金融政策の独立性が失われる」と否定的な見解を示した。

 共通通貨の創設は前途遼遠だが、「中国は加盟国の拡大で人民元の国際的な地位向上を図ろうとしている」との指摘もある。新規加盟国の多くが人民元決済に前向きだからだ。

 中国経済の影響力はアフリカやイランで圧倒的に大きい。アルゼンチンは中国からの輸入に人民元決済を認めており、UAEも中国に輸出する液化天然ガス(LNG)を人民元建てにし始めている。

 シェアを拡大する人民元にとっての逆風は、中国経済の不調により人民元安が止まらないことだ。ウォール街は「人民元の下落が世界の市場を揺るがす『ブラックスワン(事前にほぼ予想できないが、発生時の衝撃が大きい事象)』になる」との警戒を強めている(8月18日付ブルームバーグ)。このような状況で人民元が米ドルに代わる基軸通貨になることは到底不可能だ。

 加盟国拡大で存在感をより高めたBRICSだが、「共通する理念が存在しないBRICSの国々を結びつけている唯一の共通点は『恨み』だ」との指摘もある(8月30日付日本経済新聞)。

 西側の優位に対する怒り、過去の屈辱に対する鬱憤などがBRICSを突き動かす原動力だというわけだが、これが正しいとすれば、あまりにまとまりを欠いた国家連合だと言わざるを得ない。今後も国際社会に影響を及ぼす政策は期待できないだろう。

BRICS加盟国の拡大により中印対立が激化の可能性

 現在のBRICS加盟国の間に火種がくすぶっていることも気がかりだ。筆者が問題視しているのは、経済規模で圧倒的な存在の中国と、成長著しいインドとの間の確執だ。

 2020年6月にヒマラヤの国境係争地で軍事衝突が発生して以降、インドと中国の関係は急速に悪化している。今回の首脳会談の場インドのモディ首相は、習氏に対し国境係争地を巡る懸念を直談判した。

 だが、その努力は徒労に終わってしまった感が強い。

 中国天然資源省が8月28日に発表した新しい「標準地図」で、インド東部アルナーチャル・プラデーシュ州と北西部国境地帯のアクサイチン高原を中国の領土としていることが明らかになったからだ。インド政界は一斉に猛反発しており、「中国へのピンポイント攻撃」を主張する声まで上がっている(8月30日付ニューズ・ウィーク)。

 中国とインドはグローバルサウスの盟主の座を巡っても対立しており、BRICS加盟国の拡大により両国の対立はさらに激化してしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。

 「烏合の衆」に過ぎないBRICSの拡大は、国際社会の地政学リスクを高める結果をもたらしてしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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