「水分不足で老化加速、早期死亡リスク増」米研究所が発表のデータ 食事で取るべき? 飲み物で取るべき?

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水分補給量が十分でない人は老化が早まる

  何を食べると健康寿命が縮む、あるいは延びるのか。それを分単位で算出した稀有(けう)な研究論文がある。2021年、「ネイチャー・フード」誌に掲載された、米ミシガン大学の研究者グループによる論文だ。この論文によると、ホットドッグを一つ食べるごとに健康寿命が36分縮むのだという。一方、水分補給も健康な老後を支える重要なファクターだ。

 中年期に水分補給量が十分でない人は老化が早まり、慢性疾患や早期死亡のリスクも高まる可能性がある。今年1月、そんな興味深い研究結果を医学誌「EBioMedicine」(オンライン版)にて報告したのは、米・国立心肺血液研究所(NHLBI)のNatalia I. Dmitrieva氏らである。

「この論文は、とても納得できる内容です。非常にセンセーショナルな結果と言ってもいいと思います」

 そう語るのは、済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜氏だ。氏は『いのちを守る水分補給 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』の著者で、「飲水学」の提唱者でもある。

「この論文では血清ナトリウム値が使われています。水分を取らないと血清ナトリウム値は相対的に高くなり、逆に取り過ぎると低くなる。私たちは140mEq/Lプラスマイナス3くらいまでが正常範囲と考えています。この論文では、144超だと早期死亡リスクが21%上昇し、142超だと老化が早まり、慢性疾患のリスクが上がる、とあります」

 だからといって水分を取り過ぎるのも良くない。

「水分の摂取し過ぎを防ぐには、次のことを知っておくといいでしょう。私たちの腎臓が水分を濾(こ)す最大量は1分間に16ミリリットル、1時間だと960ミリリットル。つまり1時間に1リットル以上飲むと体の中に水分がたまってしまいます。理論的には、それ以上のスピードでは飲まない方がいい、という計算になります」(同)

食事によって水分を補給するのが重要

 谷口氏によると、ほとんどの病気と脱水症状は関連しているという。

「肺炎や脳梗塞やさまざまな感染症。脱水症を経過しない病気はほとんどありません。脱水を防ぐことで、いろいろな病気の予防にもなります。だから私たちは普段、病院に来た患者さんにまず点滴をすることが多いのです。始めに投与される点滴には栄養や薬はほとんど入っておらず、水・電解質(イオン)だけで、つまり水分を補給しているだけ。それでも、点滴が終わって帰る頃には元気になっていることもよくあります」

 飲み物の種類は、

「スポーツドリンクで水分補給した方がいいですか、といったことをよく聞かれます。嗜好品としてスポーツドリンクを取るとすると、弊害の方が多い。糖分が多いので血糖値が高くなり、食欲も落ちてしまいます」

 つまり、普段飲むのであれば血糖値が上がらない飲み物、ミネラルウオーターやお茶などが良い、ということになりそうだ。

 水分の取り方には他にも秘訣(ひけつ)がある。水やお茶などを頻繁に飲むだけではなく、食事によって水分補給するのが肝要なのだという。18年、「Public Health Nutrition」誌のオンライン版に掲載された論文によると、飲食物からの水分摂取量が多いと、男女共に心血管疾患での死亡リスクが低いことが示された。

「水など液体でたくさん取っても尿として出てしまいますが、食事から取る水分は体に残りやすい。食事に含まれる水分はすぐには尿にならず、代謝されるまでに時間がかかるのです」

 と、谷口氏。

「ちなみに、例えば鍋など、水分が多そうな料理を選ぶ必要はありません。ご飯も、炊く時に水分をたくさん使います。お肉はほとんどが水分なので焼き過ぎると焦げて小さくなります。水分はどのような食べ物にも入っているのです。ただ、野菜や果物より、お肉やお魚をしっかり食べた方が長期的に見たら水分が体に残りやすいです」

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