処理水問題で猛反発の中国…上海の「日本酒」「町和食」店にどんな影響が出ているか
「世の中いろいろ大変ですが、おかげさまで日本酒は順調に売れてきています」
上海市内で酒屋を経営する知人のYさん(日本人・40代)が、8月29日にSNS「微信」へ書き込んだ内容に目が止まった。【萩原晶子/上海在住ライター】
【写真】上海の「町和食」店が提供する“すき焼きパスタ” ほか
福島第一原発の処理水が海洋放出された8月24日以降、中国のニュースサイトやSNSには“核汚染水”のワードとともに、日本人であれば誰もが気が滅入るような書き込みがあふれている。不買を求める書き込みも多かった。そんななか目にしたのがこのYさんの書き込み。なぜ売れてきているのか聞いてみると、ここ最近、上海の人々の中で、日本酒が非日常品から日常品へ移行してきているからではないか、という。
「非日常を楽しむものであれば高いお金を払ってもいいのですが、日常品であれば1円でも安いほうがいいからです。飲食店では飲まず、うちから買う人が増えてきているという状況です」
日本酒が身近な存在になった結果、ほかで替えがきかないため、たとえ不買の風潮になろうとも人気は衰えないということだろう。Yさんの酒屋には、日本でもなかなか出合えない銘柄の日本酒が揃っている。 小売店なので日本料理店で飲むより安く、しかも試飲をしながら好みの日本酒を選ぶことができる。常連には、趣味で唎酒師(ききさけし) の資格を取るほどの日本酒好き中国人も多い。
日本酒を好むほどに日本に理解が深いため、不買をしないというのもあるのだろう。
「(中国国内の)報道を鵜呑みにするような人はもともとウチの店に来ていないと思います。主な客層は、20~30代の女性。高学歴で生活に余裕がある方が多い。お客さんと、今回の件が話題になったことは一度もありません。ただ、来店してそういう話題になるなど、揉めごとになるのを避けるためか、配達での注文が多くなっていますね」
日本製の食品は危険だという人と、平気だと思う人、ネットに書き込んだり苦情の電話を入れるような層が混在している。いつもどおり家で晩酌を楽しんでいる層は、そんなやりとりと日本酒を結びつけたくないようだ。
「町和食」や日本のイベントの人気は…
上海では、「町和食」という呼びかたがぴったりの、中国人オーナーによる手づくり和風料理の店が流行している。半年ほど前に「上海で『町中華』ならぬ『町和食』が流行中 “すき焼きパスタ”を生んだナルホドの食事情」という記事でも取り上げたが、こちらはどうだろう。
「すき焼きパスタ」や「筑前煮」が人気の行列店「FINE」を経営する提子さん(中国人・34歳)は、「私の店は全然影響なし。大丈夫です。心配、ありがとう」と笑顔で答える。 この秋は、カボチャ、栗、柿などを使った和風カフェメニューとおにぎりの新メニューを出す予定だという。
口コミアプリ「大衆点評」には5つ星の評価と、利用客が撮った映える写真が連日何件もアップされている。ランチタイムがはじまる前には店の前に行列ができている。すべて通常通りだ。
街やショッピングモールを見ると、昨年あたりからブームのどら焼き専門店や、人気のすき焼き店、焼き鳥専門店は変わらずにぎわっている。映画やイベントチケットのECアプリ「淘票票」では、9月の上海市内の展覧会の人気ベスト10に隈研吾展、天野喜孝展が入っている。毎年暑い時期に開催されているホラー漫画家・伊藤潤二のイベントも盛況だ。
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