絶対にだまされない「老人ホームの選び方」 見学するべき時間帯は? 何を基準にすればいい? プロが徹底解説

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

介護職員の「流派」と「流儀」

 私は老人ホームやそこで働く介護職員には介護の「流派」や「流儀」があるという話をよくします。簡単に言えば、介護をするにあたって何に重きを置くかというこだわりです。

 この「流派」「流儀」の一つに「自立支援」というものがあります。

 例えば、お年寄りがシャツを着るのを介護職員が誰も手伝わず、そのお年寄りが苦労して着替えをしていたとします。あなたはそれを見て「なんて不親切な施設でしょう」と思われるかもしれませんが、介護のプロから見ればこれは立派な自立支援です。入居者の生活を何でもかんでも職員がやってしまうと、その入居者はすぐに能力が退化して何もできなくなってしまう。ただ、冒頭の「動物園」の例ではありませんが、80代後半や90代の認知症が重度に進行したお年寄りにこの「自立支援」が絶対に必要かといえば、そうとは限らないでしょう。

高齢者介護を得意とするか、認知症高齢者の介護を得意とするか

「流派」「流儀」は介護のいろいろなシーンで登場します。私の知っている施設では認知症の夜間徘徊対策に徹底的に取り組んでいましたが、これも立派な「流派」「流儀」です。認知症の徘徊は生活上の不快や違和感が原因になっていることも多いといわれますが、その施設では日中の運動不足や便秘など原因となるさまざまな要素を一つずつつぶして入居者の徘徊に向き合っていました。

 もちろん職員個人にも「流派」「流儀」があります。一番分かりやすい例は、自立した生活を行える高齢者介護を得意とするか、身の回りのことができなくなった認知症高齢者の介護を得意とするか、というものでしょう。老人ホームでは自立型高齢者の居室と認知症高齢者の居室をフロアで分けているところも多いですが、そういった施設では担当職員も分けられています。

 認知症の場合、老人ホームに入居するのは主に在宅介護で限界を迎えた人たちです。従って、介護にも難しい技術が要求され、往々にして職員のスキルも高い。認知症で将来を悲観される方も多いと思いますが、そういう職員の胸を借りるつもりで施設に飛び込んでみれば、意外に快適な老人ホームライフを送れるかもしれません。

小嶋勝利(こじまかつとし)
老人ホームコンサルタント。1965年生まれ。不動産開発会社勤務を経て、介護付き有料老人ホームで介護職、施設開発企画業務、施設長を経験。2006年に有料老人ホームコンサルティング会社を設立。『間違いだらけの老人ホーム選び』『もはや老人はいらない!』『老人ホームのお金と探し方』等、著書多数。

週刊新潮 2023年8月31日号掲載

特別読物「『認知症』の練習帳 介護編 『姥捨て山』には行きたくない 騙されない『老人ホーム』の選び方」より

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[5/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。