絶対にだまされない「老人ホームの選び方」 見学するべき時間帯は? 何を基準にすればいい? プロが徹底解説

ドクター新潮 ライフ

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体験入居のワナ

 施設をうば捨て山にしないためにも、必要なのは頭と体がしっかりしているうちに時間をかけて施設を選んでおくこと。しかし、厄介なのは、事前知識を全くもたずに介護施設の見学や説明会に参加したところで、実態は何も分からないということです。

 どこの施設でもやっている体験入居やショートステイを利用すればミスマッチは防げるのでは、と思う方もいるかもしれません。しかし、体験入居は施設からすれば新規顧客獲得の一大チャンス。通常とは異なる完全VIP待遇で、赤子の手をひねるより簡単に契約書にサインさせられる結果になるでしょう。

 主導権を施設側に預けたまま施設選びをすることにならないよう、介護施設で待ち受ける生活がどのようなものか、簡単に紹介してみましょう。これを知っておくことは、認知症で介護施設に入居した際のシミュレーションにもなると思います。

 まず、最初に理解しておきたいのは、介護施設での生活リズムというのは、介護職員の勤務体制と切り離して考えることができないということです。例えば、ほとんどの介護施設で、入居者の入浴介助は昼間に設定されています。介護施設では24時間体制で職員が勤務していますが、夜勤は必要最小限の人員で回しますから、入浴介助はどうしても昼間に行わざるを得ないのです。

食事時は戦場

 それから老人ホームでは朝食の時間が8時前後に、夕食は18時前後に設定されていることが多い。これも職員の出勤時間を考慮してのことです。早番の職員の出勤時刻を朝7時と考えれば、朝食の時間もおのずと8時前後に決まってしまいます。「家では朝6時に朝食を食べていた」とか「自分は夜型だから朝10時くらいまで寝ていたい」といった要望は、施設では通用しないのです。

 また、個室介護の老人ホームでも、食事は体調不良等がない限り、基本的には入居者全員が食堂で一斉に取ることになります。食事中の誤飲事故などを防ぐというのが表向きの理由になってはいますが、限られた職員数で全入居者の食事を管理するためには、集団で同じ時間に集中して食べる方法が最も効率的だという理由もあります。

 実は、この朝・昼・晩の食事時というのは介護職員にとっては最も気が休まらない時間です。食事時になると、席に着いた入居者の顔を見ながら職員が配膳をしていくのですが、入居者の食事は常食というごく普通の食事形態からソフト食という嚥下障害のある人に向けた形態までさまざま。さらに薬との飲み合わせやアレルギーの問題でメニューが差し替えられている入居者もいれば、本人や家族の希望により提供する個人持ちのメニューが加わる入居者もいるのです。前者はミスがあれば、命に関わりますし、個人持ちのメニューを出し忘れただけで大騒ぎする認知症のお年寄りもいます。食後には多くの入居者が服薬しますが、こちらも命に直結しますから職員はさらに神経をすり減らす。全入居者が一堂に会した食堂は、職員にとっては戦場なのです。

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