「心が張り裂けそうでしたが、表立って泣くこともできず…」 妻と共に「不倫相手の葬儀」に出た64歳夫の罪意識 

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突然の入院

 コロナ禍でもふたりは会うのをやめなかった。頻度は減らしたが、その分、連絡はまめにとりあった。輝司さんの会社が傾きかけるという事態が発生したものの、月日がたつにつれて徐々に盛り返していった。

「去年の秋でした。彼女が急に最近、食欲がない。食べても吐くことがあると言い出して。顔色もよくなかったから、とにかく早く病院に行ってほしいと頼みました。彼女、とても丈夫だったので、夏バテだと思っていたらしい。暮れ近くに、体調が悪くてどうしようもなくなって病院に行ったらすぐに入院となったものの、検査してもなかなか病名がわからなくて。まだコロナ禍ということもあって、見舞いにも行けなかったんですが、彼女が病院に頼み込んでくれて、一度だけ誰も来ない時間帯に会うことができたんです。彼女、すっかり小さくなっていた。『もし私がシャバに戻れなくても嘆かないでね』と彼女は笑っていました。自分でもわかっていたのかもしれない。元気づけようとした僕を遮って、彼女は『私は本当に幸せだったから』と言って目を閉じました。その後、ようやく血液のガンだとわかったのですが、わかってから2週間もたたずに逝ってしまった。年が明けたばかりでした。報せは美枝子に来たんです」

 美枝子さんは冬美さんの息子さんに会ったことがあり、息子さんが母親の携帯から美枝子さんを見つけたらしい。

「美枝子が真っ青になって、『あなた、冬美を覚えてるわよね』って。ああと言ったら、『冬美、死んじゃった』と。その4日ほど前に、治療が進んでいるというメッセージを冬美本人から受け取っていたんですよ、僕。だから呆然としてしまって……」

何も言えない葬儀

 さすがに美枝子さんの手前だからと取り繕うこともできなかった。だが実感がなく、身動きがとれないだけだった。妻が床に座り込んで泣いていたので、彼は隣に座って黙って背をさすっていた。同じ人の死を、別々の思いで悲しんでいるとわかって、彼は罪深さを感じたが、それ以上に衝撃が強かった。

「夫婦で冬美のお通夜とお葬式に行きました。心が張り裂けそうでしたが、表立って泣くこともできず、友だちを失った妻を励ましている夫にしか見えなかったでしょうね。四半世紀もつきあってきたんだ、オレたちはと思いながらも、何も言葉にできなかった」

 翌日から彼はどうやって日々を過ごしてきたのかわからないそうだ。ここ数年、毎年夏に一緒に出かけていたコンサートの案内状が春に来たとき、彼は彼女を永遠に失ったことを痛感したという。

 今も美枝子さんが、冬美さんのことを口にすると、輝司さんの心臓がバクバクと鳴る。妻に疑われてはいけない、ここでバレたら冬美とふたりでがんばってきた四半世紀を汚してしまうと輝司さんは自分を抑えつける。

「25年間続いていた習慣や、毎年一緒に行っていた場所へももう行けない。去年までの自分と、自分が変わってしまったような気がします。ただひたすら耐えるしか術がない。それが不倫の恋をした人間の宿命なんでしょうけど」

 昨年、冬美と一緒に撮った写真ですと、スマホを彼が見せたくれた。そこには60歳になるとは思えないくらい若々しい、弾けた笑顔の冬美さんがいた。

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亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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