踏切トラブルで「ことでん」社長が辞任 交通再編の旗手でも苦境…ローカル線に未来はあるか
鉄道とバスが「補完」
ことでんが地盤にしている高松市は人口が約41万1,000人。高松市単体で見れば決して人口が少ないわけではない。それでも高松市周辺に人口が多い都市がなく、近隣都市から多くの通勤・通学需要は見込めない。
通勤の移動手段は大半がマイカーのため、鉄道需要は決して高くない。こうした自動車に依存する都市構造・ライフスタイルに対して、高松市は問題意識を強くしていた。ことでんと高松市の思惑は一致し、両者は将来を見据えて公共交通の持続可能性を模索するようになる。
両者は、まず路線バスの再編に着手。路線バスの再編と聞くと、路線の廃止・縮小や減便といった措置を思い浮かぶ。これらの施策は、路線バスの利便性を損なう。それは利用者離れに拍車をかける。不便になることで利用者が減り、利用者が減ったから路線の廃止・縮小や減便が繰り返される。これでは完全に負のスパイラルに陥ってしまう。
負のスパイラルが生じれば、ことでんと高松市が目指す持続可能な公共交通を築けない。ことでんと高松市が取り組んだ路線バスの再編は、こうした路線の廃止・縮小や減便を主たる内容にはしなかった。あくまで、鉄道とバスが補完関係として成り立つような内容になっている。
例えば、市中心部の高松駅や瓦町駅からバス郊外へと向かう路線バスは、市中心部の需要が大きい。ことでんのターミナル駅となっている瓦町駅にはバスターミナルが併設されており、そこからバスが市内各所へ向けて頻繁に発着している。
それまで運行されていた路線バスは、市中心部から郊外にかけて一本で移動できる便利な公共交通だった。しかし、郊外の需要は小さい。中心部と郊外を一本で結ぶ路線バスは利用者にとっては便利でも、バス事業者から見れば非効率な路線だった。
路線が開設された当時は利用者も多く、問題がなかったのだろう。時代とともに都市構造や社会状況が変化した現在において、鉄道と路線バスが競合することは利用者の奪い合いが起きるだけで、それは両者を共倒れにさせる。
こうした状況を踏まえ、高松市が中心になって公共交通の再編が進められていった。それまでのバス路線は、再編によって短い区間へとブツ切りにされた。再編で市中心部の区間は運行本数を維持する一方で、郊外の区間は運行本数を減らした。
伏石駅の試み
メリハリのある公共交通の再構築に取り組む中で、鉄道とバスとを結節させる新駅の構想が浮上する。それが2020年11月に三条駅―太田駅間に新規開業した伏石駅だ。同駅は、国道11号線に面した立地のため、駅前にはバスロータリーが造成された。これにより、市の中心部から鉄道に乗って伏石駅まで行き、そこからバスを乗り継いで郊外へ移動するという動線へと切り替えられた。
しかし、これだけで再編を終了させてしまうと負の面が際立つ。なぜなら、これまでは郊外からバス一本で市の中心部まで移動できたのに、再編によって郊外からの利用者は乗り換えという不便を強いられることになるからだ。
そのデメリットを少しでも払拭するため、ことでんと高松市は伏石駅の新設と同時に三条駅―太田駅間を複線化。これによって、同区間を走る電車の増発が可能になった。複線化は、特に朝夕のラッシュ時間帯に大きな威力を発揮することになる。
高松市とことでんの連携は、伏石駅の新設だけにとどまらない。現在、太田駅―仏生山駅間にも新駅を構想しており、この新駅も交通結節点となることが期待されている。
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