探偵業者に陰謀論の調査を依頼する人が増加中 警察は探偵に注意喚起を促すも、安易に断れないケースも

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 近ごろネット上で様々な「陰謀論」を見聞きする機会が増えている。事実や一般に認められている説とは異なる解釈を論じる人が「陰謀論者」であり、その主張の大半を専門家が眉唾物と切り捨てるのは当然だろう。【藤原良 作家・ノンフィクションライター】

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 歴史から科学まで、陰謀論のジャンルは幅広い。中には「これは真実では?」「まさかの新発見!?」と思わず信じてしまいそうになる論も散見される。結局、何を信じるかは人それぞれだが、近ごろは探偵業界でも陰謀論を扱うケースが急増している。

 探偵が仕事として陰謀論を扱うわけだから、「いったいどういうこと!?」と驚く方も多いだろう。東京都内で探偵歴10年となる某氏によると「最近、陰謀論を信じる人から調査を依頼されることが増えた」と言う。

 まずはケース1を紹介しよう。探偵のところに依頼が持ち込まれた。某国政府が特殊レーザー光線を使用して気象を操り、人工的な災害を作り出しているという。日本人科学者のKが関係している疑いがあるので、Kの身辺調査と事実確認を依頼したいとの内容だった。

 依頼者は「日本を守るために調査してほしい」と力説するのだが、探偵は能力不足を理由に丁寧に断った。だが、依頼者は日本の防衛に固執し、なかなか首を縦に振ってくれなかったそうである。

 ケース2は、裏で日本を牛耳っている実力者が年内中にC国と“ある密約”を結ぶという内容だった。マスコミは既に情報をキャッチしているが、絶対に公にはしない。そのため、マスコミに対して事実関係を確認してほしいという。

依頼を引き受ければ逮捕!?

 探偵は「あなたのご依頼について、改めて内容を教えてほしい」と説明し、何回か会う機会を作った。そして依頼の根拠について質問したが、しばらくすると依頼者は音信不通になってしまったという。

 ケース3は、未解決事件の真犯人がある街のアパートに潜伏しているという内容だった。真犯人は闇の組織とつながりを持ち、大変に危険な人物なので、どうか慎重に調査してほしいという。

 この依頼が事実なら、探偵の範疇を超えており、警察の出番だ。探偵が「警察に相談してください」と助言すると、依頼者は「警察も真犯人の仲間だからそれは無理!」とひとしきり陰謀論を述べ、最後は「あなたが引き受けないのなら別の探偵に依頼します」と断ってきたという。

 探偵業界は、こうした依頼者を「トラブル必須の危険な依頼者」として敬遠する。なぜかと言えば、こういった依頼者は精神的な問題を抱えている可能性が高いからだ。

 専門用語を使うなら、契約には相手の「事理弁識能力」が不可欠だ。「契約内容を正しく理解し、有効な意思表示ができる」ことが必要なのだ。

 事理弁識能力に疑問がある依頼者の場合、行動を制御する能力にも問題があるかもしれない。こうした人々と契約を結ぶと──あらゆる商取引でも同じなのだが──探偵側が法律違反を問われる事態になる。

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