テロにも遭った東京港区の「天下りビル」が取り壊しに その理由とは?

国内 社会

  • ブックマーク

 東京は港区のアメリカ大使館の前に、がらんとしたビルが立っている。周囲の高層ビルと違って9階建ての白い建物は、どこかレトロな雰囲気だ。この「三会堂ビル」が取り壊されることが明らかになったのは6月のこと。解体工事は8月にも始まる。

 三会堂といっても一般にはその名の由来は知られていないだろう。

「三会というのは農水省の外郭団体である大日本農会、大日本山林会、大日本水産会のことを指します。1891年に現在の場所に一緒に入居するための建物を作り“三会堂”としたのが始まりです。その後、関東大震災での焼失と再建を経て、改めて1967年に現在のビルが建てられ今日に至っています」(農水省の担当記者)

 ただのテナントビルでないことは、その入居者を見れば分かる。2001年版のゼンリン住宅地図を見ると、農林水産省関係の公益団体や関連企業と思しき組織が43も入居しているのだ。

「これらの公益団体には一時、100人近い官僚が役員として天下っており、マスコミから“天下りの塔”と呼ばれたことがあります」(同)

1990年にテロが

 政治との距離が近いビルだけあって、標的となったことも。1990年には入居する動力炉・核燃料事業団を狙ったテロと見られる放火事件が起きて、消防署の隊員が亡くなった。12年には野田内閣の下で発足した復興庁の本部が入り、東京五輪の組織委員会が入居していたこともある。

 同ビルを運営する一般財団法人農林水産奨励会に聞くと、

「50年以上たった建物なので設備が古くなっておりまして、これを機会に建て直すことになったわけです。新しいビルはゼネコンの鹿島と共同の運営になります」(担当者)

 取材で50年近く前から三会堂ビルに出入りしてきた農政ジャーナリストの横田哲治氏が言う。

「私が最初に訪ねたのは入居しているオーストラリア大使館の商務部を取材するためでした。他にも農水関係の勉強会も開かれ、情報を得るためには便利だった。古いといいますが、とても頑丈な造りで、耐震的にも問題はないはず。建て替えるのは、安い家賃で居座っている多くの農水関係団体に出て行ってもらいたかったのでしょう」

 4年後、「天下りの塔」は19階建ての瀟洒(しょうしゃ)なビルに生まれ変わる。

週刊新潮 2023年8月31日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。