草刈正雄の父親は生きていた…「ファミリーヒストリー」が光を当てた戦後裏面史 「GIベビー」と「エリザベス・サンダース・ホーム」

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 8月14日にNHK総合で放映された「ファミリーヒストリー 草刈正雄~初めて知る米兵の父 97歳伯母が語る真実とは~」の感動と衝撃は、いまだに収まりそうもない。その後も学校で、職場で、あるいはSNS上で、「泣いた」「見逃し配信でまた見てしまった」と話題は尽きないようだ。

草刈正雄の涙の意味

 番組の概容をベテランの芸能記者に解説してもらった。

「『ファミリーヒストリー』は、自身すら知らなかった著名人の家族の歴史や先祖のルーツを驚異的な取材力で探っていくドキュメンタリー番組です。2008年に不定期放送としてスタートでしたので、長寿番組と言っていいと思います。おそらくイギリスBBCの国民的人気番組『Who Do You Think You Are?(自分が何者だかわかっているの?)』がヒントになったと思われます。しかし、いまの日本でこの種の企画は、個人情報やプライバシーの保護の観点から、そう簡単ではありません。取材方法によっては、視聴者に不快感を与えかねない。この番組はその問題を丁寧にクリアしているばかりか、民放では難しい時間と手間をかけています」

 長く続いているだけあり、「又吉直樹~ハワイに渡った祖父の軌跡~」や「志村けん~東村山で生きた父 教師と柔道を貫く~」など、これまでに多くの名編が生まれた。

「今回の草刈正雄さん(70)は、感動の度合いが別格でした。太平洋をまたぐスケールの大きさもさることながら、いまでは忘れ去られた戦後占領期の日米間の問題に改めて光をあてたことが番組に深みを与えました」(同・記者)

 NHKの番組ホームページでは、以下のように内容が紹介されている。

《生まれた時から母と二人だった草刈正雄。父は日本に駐留したアメリカ兵だが顔も知らなかった。母は「朝鮮戦争で死んだ、写真は焼いた」と多くを語らず死去。制作班は正雄の記憶にあった「ロバートトーラ」という人物を全米で探すが調査は難航を極める。半年後ようやく親族が判明。なんと父は朝鮮戦争から生還していた。父の容姿や性格、母との出会いも明らかに。「なぜ父は母のもとを去ったのか」父の姉が70年ごしの秘密を告白》

 ところが、番組の中で判明した真実に、草刈は単純に喜びの表情を浮かべたわけではなかった。

「たしかに、草刈さんは涙を浮かべていました。しかし、どこか冷静な様子も漂っていました。『すみません……何も言葉がなくて』と口にする程度。もしかしたら号泣するのでは、と思って見ていた視聴者も多かったと思います。もちろん、あまりに意外な事実に、草刈さん自身、気持ちの整理がつかなかったのでしょう。第三者にはうかがい知れない複雑な何かが、草刈さんの胸中に湧き上がっていたようにも見えました」(同・記者)

 占領軍兵士と日本人女性との間に生まれた混血児は、通称「GIベビー」と呼ばれた。GIとは米兵を中心とした連合国軍の兵士の俗称だ。名付けたのはアメリカの雑誌「サタデー・イブニング・ポスト」で、1948年6月19日号の特集「占領の落とし子たち」だった。この問題について占領軍が何も策を講じていない実態を初めて報じた記事である。

 GIベビーの人数は、当時は推定1000~4000人と見られていたが、最終的には2万人とも3万人ともいわれている。多くの子供が日本に置き去りにされ、偏見や差別を受けたが、こうした占領下の「負の歴史」は、いまでは忘れ去られた感がある。草刈さんの表情に垣間見えた“第三者にはうかがい知れない複雑な何か”――それは戦後、彼らが乗り越えてきた苦難の日々そのものだったのではないか。

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