【VIVANT・考察】乃木がバルカに向かう飛行機内で、野崎に向かって言った故事の重要な意味

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乃木が野崎に告げた故事の意味は

 すべては乃木がテントのリーダーで父親のノゴーン(役所)と会い、日本を標的にする狙いを知るため。それを探るのであるなら、ノコルを捕縛して聞き出すより手っ取り早い。

 乃木はテントに捕らえられた後、黒須から「作戦か」と問われると否定したが、やはり計画的な行動に映る。4人の射殺直後に別班幹部の櫻井里美(キムラ緑子・61)は動揺していた。乃木から計画を知らされていなかったのかも知れない。

 そう考えると、日本からバルカに向かう飛行機内で、乃木が野崎に向かって次の故事を言ったのも腑に落ちる。

「鶏群(けいぐん)の一鶴(いっかく)、眼光紙背(がんこうしはい)に徹す」

「鶏群の一鶴」は多くの凡人の中に一人だけ際立って優れた人がいること。「眼光紙背に徹す」は注意力や理解力が鋭いことのたとえ。乃木は「野崎なら国を救うために自分が行う破天荒な計画を理解してくれる」と思ったのではないか。

 8話の予告映像には乃木に撃たれた4人の棺らしき白い箱が映っていたが、死んだことにしないとテントに潜入中の乃木と黒須が危ない。だから不思議ではない。

 逆に4人が死んでいたら、乃木は殺人鬼の烙印を押される。ドラマはいきなりピカレスク(悪党)作品になってしまう。テントのモニター(非公然協力者)だった丸菱商事の山本巧(迫田孝也・46)を処刑したのとは事情が全く違う。

 このドラマは主人公が父親とともにテロリストになって終わるのか。いや、いくら想定外ばかりのドラマであろうが、それは考えにくい。

若者の視聴率が依然として高い

 7話はほかにも謎があった。テント内でのノコルの特別待遇である。幹部のバトラカ(林泰文・51)はノコルと一緒にヴォスタニアに会いに行くメンバーに対し、「何があってもノコルに犯罪歴を付けるな」と厳命した。なぜ、テロリストが犯罪歴を気にするのか。

 最終的な標的である日本でテロを実行する際、ノコルが中心人物役を果たすからかも知れない。犯罪歴が付くと、正規のパスポートは取れず、ビザも下りない。そもそも日本語が流暢なノコルは日本人であるように思える。

 ほかにも数々の謎が残っている。ノゴーンはどうしてテントをつくったのか。ノゴーンは元警視庁公安部の刑事。心身ともに鍛え上げられたエリート集団の一員だった。日本から少しくらい裏切られようが、悪には転じないはず。転向の理由は名前に隠されている気がする。

「ノゴーン」は緑、「ベキ」は魔術師。ノゴーンは砂漠地帯を緑の楽園に変え、作物が獲れるようにした。大衆を救った。この事業を踏みにじる者がいたら、憎悪を抱いても不思議ではない。

 その相手はバルカ政府と日本政府ではないか。3話でバルカ全権大使の西岡英子(檀れい・52)はバルカ政府の外務相・ワニズ(河内大和・44)とおかしな会話をしている。ワニズから西岡への脅しだった。

「小さなことでも協力し合わないと、日本はアジアでの主権を取り戻す機会を失いますよ」(バルカ政府高官)

 主権争いに関わることとは何か。エネルギーもその1つだ。7話で明かされたが、バルカには豊富な地下資源がある。両国は地下資源の採掘の過程でノゴーンの緑地の破壊を行っているのだと見る。

 7話の個人全体視聴率は9.3%(世帯14.1%)だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。6話と同率で番組最高タイ。8月21日から27日放送されたプライム帯(午後7~11時)のドラマの中で断トツだった。

 大きな特徴である若者の高視聴率も続いている。T層(13~19歳)の個人視聴率は6.1%、F1層(20~34歳の女性)は同6.0%もある。現在のドラマ界の常識からすると、信じがたいほどの数字だ。考察が楽しめるのが大きな理由にほかならない。

 2位のテレビ朝日「ハヤブサ消防団」(木曜午後9時)は個人全体5.6%(世帯9.6%)、T層は同1.3%、F1層は同1.6%。3位の同「科捜研の女」(火曜午後9時)は個人全体4.9%(世帯8.7%)、T層は同0.5%、F1層は同1.2%。大きく違う。特に若者の視聴率は雲泥の差だ。

 秋ドラマの気配が漂ってきたが、他局が「VIVANT」の成功を一時的なものと軽く考えてしまうと、若者はまたドラマから離れてしまうに違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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