ジャニーズ性加害 再発防止特別チームが指摘した「マスメディアの沈黙」 “テレ朝の呪い”は解けたのか
見落としていた点をコメンテーターにズバリ指摘された大下容子アナ
テレビ朝日で役員待遇という、アナウンサーとして頂点に君臨する大下容子アナ。彼女がキャスターを務めるお昼のワイドショー「大下容子ワイド!スクランブル」は芸能ネタを扱わず、中国やロシアなどの国際問題から物価高などの国内問題まで時事ネタを材料にして解説する硬派の情報番組だ。この番組もこれまでジャニーズ性加害を扱おうとはしなかった。役員待遇の大下アナの名前が冠についていることから“テレ朝の呪い”という点ではテレビ朝日という会社の根幹に近く、根が深いといえるのかもしれない。
性加害再発防止特別チームが調査報告を発表して一夜明けた8月30日――。
番組のトップニュースとしてジャニー喜多川氏の性加害問題への特別チームの調査報告について放送した。今年3月のBBCの報道以降、ジャニーズの性加害がいくら話題になってもずっと「沈黙」を守ってきたこの番組で初めての画期的な出来事だった。
一方で不自然な面も目についた。林眞琴元検事総長ら特別チームによる記者会見の映像では「マスメディアの沈黙」の部分についての音声を使わず、問題の根幹は「同族経営」が主な原因であったと強調するようなナレーションが流された。その後で解説のために表示したスタジオのパネルも「マスメディアの沈黙」については比較的小さな文字で書いてあるだけ。どうも番組としては自分たちテレビにも責任があるという姿勢を強く示したくはないらしいことが見てとれた。
メインキャスターである大下容子アナはこの「メディアの沈黙」については触れなかった。しかしコメンテーターの萩谷麻衣子弁護士はVTRを不自然だと感じたのかその後に以下のように指摘した。
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(萩谷麻衣子弁護士)
「今回、(特別チームが補償などでも)踏み込んだ背景には日本の最も大きなエンターテインメント会社のトップが約60年にもわたり、(相手は)子どもですよね、性加害の対象にしながら、多大な利益を上げてきた……。そこで利益はやはり被害者の救済に使いなさいという考え方が出ているなと思いました。
ガバナンス不全は同族会社が最大の弊害だと、さきほどのVTRで言ってましたけど、同族会社の弊害というのは通常は風通しが悪いとか内部で問題解決の自浄作用がないとかを言うのですけど、このケースについてはたとえ外部に言ったとしてもそれをもみ消されてしまう。取り上げてもらえない……。だから単純な同族会社の弊害ではないということは押さえておかないといけないと思います。
その点では「マスコミの沈黙」ということも長きにわたって性加害を放置してしまった、そこへの影響は大きいと思います。
マスメディアというのは人権侵害への監視ができる立場にある。この報告書でも企業の人権尊重というのは重要なのだと言っていますけど、マスメディアこそ、その立場に立てる。だからこそ高度の報道の自由が保障されている。そこの覚悟と自覚を問われているということだと思います」
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番組がVTRなどであえて強調しなかった「メスメディアの沈黙」に触れ、マスメディアの役割について指摘する鋭いコメントだった。これは本来なら番組を進行するメインキャスターである大下アナの役割のはずだが、それをコメンテーターの一人である萩谷弁護士に言われてしまって、報道の人間代表として面目は丸つぶれだった。
キャスターの大下容子アナは子どもの性被害について責任を実感していないのか、やけにあっさりと以下のような言葉で引き取った。少し慌てたような幕引きだった。
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(大下容子アナウンサー)
本当にメディアの沈黙ということで…今回もイギリスのBBCが報道したことがきっかけで国連の人権委員会(理事会の誤り?)も動くことになって…ということですので、本当に私たちも健全な緊張感をもって、はい…、いい方向に向かう。そのきっかけにしなければならないと思います。
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テレビ朝日にはジャニーズ性加害問題を報道しにくい「何か」があるらしいことはこれまでのこの問題に対する他の番組からも明らかだ。観察してみると“テレ朝の呪い”は「ワイド!スクランブル」など情報番組の扱いだけでなく、看板ニュース番組である「報道ステーション」にも及んでいた。まったく扱わないというわけではないのだが、ふだん他局を出し抜くスクープ報道を果敢に連発しているのに、消極的というか精彩を欠いている。NHKから鳴り物入りでテレ朝に移って看板番組を任される大越健介キャスターもいつもならジャーナリストとしての豊富な経験から繰り出す鋭いコメントを封印。どこかギクシャクしたものを漂わせていた。
それがようやく8月29日のジャニーズ事務所の性加害問題の再発防止特別チームが調査報告書を発表した記者会見についての報道でかつてない神妙な表情を見せた。
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