「最高の教師」の次は日曜劇場「下剋上球児」…少子化のはずなのになぜ“教育ドラマ”が続くのか

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1980年も3本の教育ドラマがあった

 それにしても、どうして教育ドラマが続くのか。近年、少子化を背景に教育ドラマは減り、昨年は1本もなかったのだ。一方、今年は冬ドラマにも法科大学院に通う若者たちの学びを描いた「女神の教室~リーガル青春白書~」(フジテレビ)があった。1年で計3本。理由は最近の教育事情と無縁ではないだろう。

 1980年も3本の教育ドラマがあった。「3年B組金八先生」、怪優・本田博太郎(72)が高校教師に、たのきんトリオの田原俊彦(62)、近藤真彦(59)、野村義男(58)が生徒に扮した「ただいま放課後」(フジ)、西田敏行(75)が小学校の産休補助教員を演じた「サンキュー先生」(テレビ朝日)である。50代以上の人なら、ご記憶のはずだ。

「金八先生」が当たったから追いかけたドラマもあるだろうが、それだけではない。当時は教育への関心が高まっていた。この年、未成年の刑法犯逮捕(検挙)者が戦後最悪を記録したからである。

「金八先生」でも描かれたが、校内暴力の嵐が全国に吹き荒れ、暴走族が我が物顔で街を走り回り、毒物・劇物の濫用者も多かった。翌1981年には全ての刑法犯逮捕(補導)者のうち、未成年の割合が5割を超えた。極めて異常な事態となった。

 成績至上主義だった、それまでの家庭と学校での教育が崩壊した時期と言って良かった。教育は誰もが無関心ではいられないテーマになっていた。そんな空気を感じ取り、ドラマにするのが制作者だ。TBSには「ドラマはジャーナリズム」という言葉すらある。時代や世相を考えない制作者はいない。

 未成年が荒れたまま迎えた1982年には、俳優の故・穂積隆信さんと非行に走った娘の話に基づく「積木くずし ~親と子の200日戦争~」(TBS)が制作され、最終回では世帯視聴率45.3%の視聴率を記録した。不幸な他人の家をのぞき見する感覚で観られていたのではなく、自分たちの問題として観ている人が多かった。

今こそ教育ドラマをやるべき意義

 今はどうなのか。やはり教育ドラマをやる意義がある。文部科学省の2021年度調査によると、いじめの認知件数は過去最悪。全国の小中高、特別支援学校を合わせて61万5351件にも達している。2013年度の実に3倍以上になっている。少子化でありながら、深刻な状態だ。

 いじめそのものを扱わなくても教育ドラマには親子や家族、友人同士が学校での問題を語り合う糸口になる。多くの人が教育に目を向けるきっかけになる。教育現場に問題がある今、制作者たちはドラマをつくりたくなるだろう。

「最高の教師」はいじめをリアルに描いた。文科省の調査を見ると分かる。それよると、いじめの中身は「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が最多で、中学校では62.2%、小学校.高校も60%近くに達する。これは生徒の1人・鵜久森叶(芦田愛菜・19)が受けたいじめとほぼ重なる。

 本作の制作者がきちんと調査した上で物語をつくっているのがうかがえる。いじめの描写が「重い」という声もあったようだが、そう言われるのは覚悟の上だったはず。明るく軽いいじめなんて存在せず、重くならないようにするくらいなら、いじめなど描かないほうがいい。

 鵜久森も九条と同じで、人生の2周目を送っていた。1周目はいじめが解決しないまま不登校となり、自死。2周目はいじめにはなんとか打ち勝ったものの、不慮の転落死を遂げた。

 この後、九条がどう動くか。ほかの生徒たちのケアもしなくてはならない。それを描くのも教育ドラマ。制作者たちの正念場だ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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