意味不明でも語感がよければウケる 日本語独特の奥深さについて考える(中川淳一郎)
「シャレオツ」という「おしゃれ」を若干揶揄する形の言葉が自然に使われていますが、突然違和感を覚えました。「シャレオツ」の誕生の背景は分かります。元々メディア人や広告人といったいわゆる「ギョーカイ人」が「ギロッポンでチャンネーとシースーウークー」などと、「六本木でネエちゃんとすしを食う」をカタカナにしたうえで逆読みしていたわけです。いや、私も両業界を経験しましたが、あえてバカっぽくみせるためにジョークの一種として使っていた気がします。
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この場合「スシ」が「シースー」と「ー」が入る変化はありますが、元の言葉は一応維持されている。しかし「シャレオツ」には、元の言葉にはない「ツ」が入っている。一体これはなんなのだろうか……。「シャレオ」ではいけなかったのか。語感から「ツ」を入れた方がしっくりくるという判断がなされたのか。
このように日本語には非常に面白い表現がありますが、新聞や雑誌記事の「締め」部分に登場する言葉も考察に値する。代表的なのが「波紋を呼びそうだ」「議論を呼びそうだ」という表現です。これは明らかに「波紋」と「議論」を呼び起こしたい記者が書いているだけの話です。批判したいのであれば、こんな表現をせず「これはとんでもない問題だ、喝だ!」と張本勲さんのように書けばいいのに、他人に波紋・議論を巻き起こしてくれ、と願っている。
正直、私のような後ろ盾のない野良フリーライター・編集者からすれば、このような逃げを打つモノカキは批判の対象でしかない。実名で意見が言えず、他人ヅラをして外野からはやし立てるだけの文章なんてもんは、商業メディアで出すべきではないし、原稿料をもらう資格もない。
モノカキたるもの、自分の書いた文章には責任を持つべきです。「いやぁ~私はあくまでも『波紋を呼びそうだ』と書いただけで、『波紋になる』とは言ってませんよ(笑)」みたいなことを許してはいけない。
と突然意識高く日本語について意見したのですが、ここで登場するのが伊藤園の「お~いお茶」のペットボトル。たまたま目に入ったのですが、「夫が妻にお茶を入れることを要求するようなネーミング」と批判された過去があります。
ただ、この商品のネーミングは素晴しいヒントを与えてくれると思うのです。「お~い」みたいな言葉を入れればなんとなく納得できるものになる。初めて会う人をもてなす時は「は~いビール」。コンサートに持ち込むお茶は「し~んお茶」。エナジードリンクは「よ~し一発!」とか。
これまで「お~いお茶」を参考にしたメジャーなドリンクはなかったのですが、これから日本の飲料メーカーはこのネーミングをパクって魅力的な商品を開発してもいいのでは。商品って売れるか売れないかネーミングがかなり影響しますからね。桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」なんて見事に商品名とそのクオリティー・斬新さから大ヒットした。
冒頭の「シャレオツ」に戻りますが、実態を伴わないというか、意図不明であってもナイスな語感だったらウケるというのも日本語の奥深さです。