ビッグモーター「不当解雇」訴訟で大ピンチ 原告男性が語る「いきなりクビ宣告」の歪な企業風土

国内 社会

  • ブックマーク

「君がいると楽しくない」

 “予兆”として解雇に至る前、男性はマネージャーから「身に覚えのない」勤務態度のことで何度か注意を受けていたという。「他の従業員に自分の仕事を手伝わせている」や「車検の台車を勝手に制限している」などの指摘だったが、男性は“従業員への聞き取りや実際に現場に来てもらえれば事実無根とわかる”と訴えた。しかしマネージャーは「じゃあいいや」と言って、まともに取り合わなかったという。

 実はマネージャーに“男性の勤務態度に問題がある”と報告していたのは、男性の店舗に新しく着任した工場長だった。着任当初、工場長は「現場のことを一番把握している」人物として店長から男性を紹介され、その言葉に従って車検・点検などの工程作成を男性に任せていた。

 しかし、しばらく経つと工場長から男性に対し、愚痴とも妬みともつかない言葉が向けられるように。訴状には具体的にこんな言葉が記されている。〈他の同僚と仲良くしているのが気に食わない〉〈原告が職場にいると仕事していても楽しくない〉――

 また〈他の従業員が原告の指示に従って動いており、(自分は)工場長としての職責を果たせていない〉との思いから、男性に「工場長をやってくれないか」と打診。しかし男性が「現場で整備の仕事に携わっていたい」との理由で断ると、工場長は〈周りのスタッフからの支持がなく仕事をしていても辛い。こんなに辛いのは原告が工場長を引き受けないことが原因だ〉と洩らしたという。

 男性がマネージャーから勤務態度に関する注意を受けるようになったのは、これ以降のことだった。

「判決は全部不服」

 マネージャーから「クビで」と告げられた際、男性が解雇の理由を訊ねると、「勤務態度が悪いとの報告がある」と言うのみだった。続けてマネージャーは「これ書いて」と、男性に退職届を書くよう促したが、“クビだ”と言われて自分で退職届を書くのはおかしいと考えた男性は提出を拒否。当日も業務を続けようとしたが、「帰るよう」言われたためやむなく退社し、以降、出勤しなかったという。

 男性の提訴はそれからおよそ半年後のことだが、今年2月8日、水戸地裁は男性の訴えを認めて「不当解雇」と認定し、ビッグモーターに請求通りの賠償を命じた。ビッグモーター側は裁判で、工場長らが男性を「疎んでいた事実はなく、勤務態度の改善を促したに過ぎない」とし、さらに解雇ではなく、退職を申し出たのは男性側だと主張。

 しかし判決文では、男性の勤務態度に問題があったことを裏付ける証拠はなく、裁判での工場長やマネージャーの証言は〈不自然、不合理〉であり、〈採用できない〉と却下。また男性は退職届けの提出を一貫して拒絶していたと認定し、〈本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、違法である〉と結論付けた。

 原告側の“完全勝利”だったが、ビッグモーターは5日後に控訴。控訴状で〈判決は、全部不服であるから控訴を提起する〉とし、控訴理由書のなかで、そもそもマネージャーの「クビ」発言自体がなかったとして「(原告側の)請求そのものに理由がない」と主張するなど、強硬姿勢を崩さなかった。

次ページ:犠牲者は他にもいる

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。