異例の「そごう・西武労組」ストはどれくらいの意味があったか 業界からは「振り上げた拳を降ろすタイミングを失った」

ビジネス

  • ブックマーク

錆びた宝刀

「振り上げた拳を降ろすタイミングがなくなってしまったのでしょう。当初、売却後の情報をもっと出してくれということを交渉の材料として、スト権をチラつかせたわけです。それである程度の情報を引き出すことに成功したので、一定の効果はあったと思います。ところがその後、『譲渡自体には反対しない』と言いながら、『まだ情報が足りない』『納得できない』という状態が続きました。これは事実上、譲渡に反対しているようなもので、譲渡を決議するのならスト決行といった流れになってきてしまったのです」

 結局、譲渡が議決される日にストが行われた。

「株式譲渡を止めるという点ではストは意味がありませんでした。遅すぎましたね。労組側は、セブン&アイの株主となっている社員や元社員を動員して、今年2月にセブン&アイに対して株式譲渡を差し止める仮処分を申し立てたり、3月にはセブン&アイの取締役全員に損害賠償を求めて株主代表訴訟を提起するなど、次々と法的措置を講じました。強面のアクティビスト顔負けの妙な場外乱闘に持ち込むより、この頃に労働者の権利として堂々と伝家の宝刀を盾に交渉したほうが良かったかもしれません」

 百貨店でのストは、1962年に阪神百貨店で行われて以来、実に61年ぶりという。なぜ今まで行われなかったのだろう。

「あまり意味がなかったからでしょう。日本でストが行われたピークは、阪神百貨店のストよりずっと後の1970年代です。ところが、スト全盛期にもかかわらず、百貨店ではストが全く行われなかった。労使交渉に用いる手段として有効ではないことが、すでに分かっていたからでしょう。例えば、旧国鉄をはじめとする鉄道会社は、通勤・通学の代替の交通手段がない場合はお客にも迷惑がかかるので、経営側としてもストを回避しようとしました。しかし、百貨店のような小売業には、代わりの百貨店がある。池袋で西武が閉まっているのなら西口の東武百貨店に行っても高級ブランド品は買えるし、電車に5分ほど乗って新宿に出れば、伊勢丹、高島屋、小田急、京王と百貨店はいくらでもあるわけです。これではかえって競合の百貨店が潤うだけで、ストをやればやるほど自分たちの職場が危うくなる。存在が利用客にとって唯一無二でないため、これまで60年余り行われてこなかったのでしょう」

 ストを行った場合、社員は有給扱いなのだろうか。

「通常、会社からはお金は出ませんが、賃金は労働組合から支払われます。もっとも、百貨店内には中小や零細の企業も入っています。テナントや催事場などで働く人たちなど組合員以外には支払われません。ちょうど8月31日は夏休みの最終日でしたから、テナントにとっては大事な日だったはずです。今日は仕事を頑張ろうと思っていた人も少なくないでしょうね」

 そごう・西武は何を誤ったのだろう。

「百貨店はかつては小売りの王様であり、庶民にとっても憧れの存在だった。ところが、この20~30年で小売業界は大きく変わりました。ユニクロやニトリなど製造小売りと呼ばれるアパレルや家具の専門店が台頭し、さらに買い物はネットにシフトしました。このような地殻変動で、顧客基盤をもっとも浸食されたのが百貨店でしょう。それでも、この業界の特に古株の社員の意識は変わっていません。ヨドバシ出店にあれだけ反対したのも、彼らを明らかに見下していたように感じます。池袋駅の一等地に家電量販店は相応しくないという声もありましたが、そんな一等地の好条件を活かせなかったのが西武池袋本店だったということです。ただ、2000年代以降、多くの名だたる日本企業も辛酸をなめた時期がありました。百貨店業界で勝ち組の三越伊勢丹もそうですし、業種業態は全く違いますがソニーなどいくつかの代表的な日本企業も事業変革が成功して復活を果たしているわけです。そごう西武も労組の反対かなわず株式譲渡されたとはいえ、雇用と事業は残るわけですから、これをピンチと捉えるかチャンスと捉えるかで未来は大きく変わるかもしれません。」

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。