異例の「そごう・西武労組」ストはどれくらいの意味があったか 業界からは「振り上げた拳を降ろすタイミングを失った」
8月31日、西武池袋本店(東京・豊島区)でストライキが決行された。ストは労働者に認められた正当な権利であり、労使交渉の最終手段として用いられる“伝家の宝刀”とも呼ばれる。そごう・西武の労働組合が会社売却に反対してストに突入してから間もなく、親会社のセブン&アイ・ホールディングスは米国の投資ファンドへの売却を決議した。では、伝家の宝刀は何のために抜かれたのか。
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【写真11枚】実際のストの様子 人であふれかえった店の前には、意外なほど従業員の姿がない
ストが行われている西武池袋本店前では、労組を支援するビラが配布されていた。その一部を抜粋しよう。
《マネーゲームに明け暮れ、労働者の雇用・生活も「池袋の街を勝手に変えるな」の地域住民の声も無視抹殺する極悪のセブン&アイHD社長・井阪を打ち倒そう! 私たちも共にたたかいます!》
大手百貨店の幹部は言う。
「そごう・西武の組合員の中には、経営側がもっと上手いコミュニケーションが取れなかったのかと思っている人もいるでしょう。そこは確かに言う通りの面もあります。ここまで労使対立がクローズアップされてしまった以上、使用者側への批判は当然免れません。しかし、そごう・西武は4期連続で赤字を続け、有利子負債を3000億円も抱えているため、単体では存続できない状態です。あの大塚家具も5期連続の赤字でヤマダ電機に吸収されましたが、そごう・西武はそれ以前にも赤字を繰り返し出していましたし、過去にそごうは経営破綻もしていますからね。労組は店舗の存続と雇用維持、つまり現状維持を求めていましたが、どう考えても難しい話でした」
親会社のセブン&アイは百貨店事業を切り捨てた、との報道も見られる。
売却後も面倒みる
「池袋本店の土地も投資ファンドに譲渡されますが、これによってそごう・西武は巨額の借入金がなくなり、前向きな施策ができるようになるわけです。投資ファンドがヨドバシカメラを事業パートナーに加えたのは、大阪・梅田や仙台など駅前出店で成功してきた実力や同社の資金力を見越してのことでしょう。ヨドバシの出店により西武池袋本店の売り場面積は今より縮小しますが、もともと売り場面積が広い店舗なので、都内の他の大型百貨店と比べてもそれほどの遜色はないはずです。さらにセブン&アイは、そごう・西武への貸付金(千数百億円)のうち900億円程度の債権を放棄する方針だそうです」
労組が訴える雇用維持に対しては、
「正直言って、赤字部門の売却を決めたセブン&アイに、売却後も雇用を維持してくれと訴えても本来は意味がありません。M&Aは企業の売り買いであり、売却後は新たな株主のものです。通常であれば、前の親会社に売却後の経営方針について発言権などありません。ところがセブン&アイは、投資ファンドに売却された後、そごう・西武に余剰人員が出た場合は、イトーヨーカ堂などセブングループ内で引き受ける方針も固めたそうです。むしろ必要以上に面倒をみている印象で、そこまでやってくれる会社はなかなかありません」
それでもストを決行したのはなぜか。
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