“ぼっち練習”で覚醒の「菊池雄星」は二ケタ勝利目前 改めて思い出す彼の「座右の銘」

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“ぼっち練習”から生まれた新フォーム

 ブルージェイズに移籍して1年目の22年、菊池は地元トロントのファンの期待を裏切ってしまった。

「マリナーズ在籍の3年間の通算成績は15勝24敗。マリナーズ最後の21年はオールスターゲームにも選出されたが、後半戦は調子を落として先発ローテーションから外された。それでもブルージェイズが高額で菊池を迎えたのは『ひょっとしたら?』と期待させる要素がいくつかあったからなんです」(前出・同)

 彼の代理人であるスコット・ボラス氏(70)は「オールスターゲームに出場する投手が欲しくない球団があるはずがない」「97マイル(約156キロ)を投げるサウスポーがメジャーリーグに何人いると思っているんだい?」と強気のセールスを続けた。言われてみればその通りである。ブルージェイズも「環境が変わればもっと勝てるのではないか?」と捉えていた。

「どういうわけか、東海岸の球団との対戦成績が良かったんです」(前出・米国人ライター)

 岩手県盛岡市出身の菊池は、農業を営む祖父母から「桃栗3年柿8年」のことわざを学び、好きな言葉にも挙げていた。桃や栗は種を蒔いてから3年、柿は8年が経たなければ実をつけない。ひとかどの人物になるには時間と努力が必要との意味で使われている。

 実際、菊池は努力家だが、果樹には適した土壌も必要だ。しかし、変化球でストライク・カウントが取れなくなると、真っ直ぐに頼って、それを狙い打ちされる悪癖はブルージェイズ移籍後も変わらなかった。

 また、2022年と言えば、翌年3月のワールド・ベースボール・クラシック(以下=WBC)に向けて、NPBスタッフが日本人メジャーリーガー合流のために働き掛けていた。大谷翔平(29)、ダルビッシュ有(37)の周辺が騒がしくなっても、菊池は“蚊帳の外”だった。

「今までの菊池は変化球でストライクが取れるようになるため、新しい変化球を覚えたり、投球モーションをマイナーチェンジさせたりしたこともありましたが、WBCで候補メンバーにも名前が挙がらなかったのが本当に悔しかったみたいです」(前出・同)

 侍ジャパンの候補メンバーにも名前が挙がらなかった22年オフ、前述の通り、菊池はアリゾナ州にある自宅に“マイブルペン”を造り、投げ込み練習を続けた。受け手の捕手がいなかったのでネット投球だ。それも超ハイスピードカメラや、回転数や回転軸などを計測できる「ラプソード」も用いて、制球難改善のための投球フォームと球質を煮詰めて行った。

 腕の振りがやや小さくなった新フォームは、そんな“ぼっち練習”から生まれた。苦しんで悩んだ末にたどり着いたフォームであり、相当量の練習に裏打ちされたものだから、打ち込まれたときも首を傾げなくなった。

 また、地元トロントの野球サイト「ブルージェイズ・ホットストーブ」も、「undesirable(好ましくない者)からundeniable(紛れもない者)に変身した」と菊池の覚醒を認めていた。

 諸説あるが、「桃栗3年柿8年」の後ろに「枇杷は早くて13年」「柚子は大馬鹿18年」などの言葉が続くとも言われている。

 果実が実るまでの道のりも長いが、ほんのり甘い香りと瑞々しさで「美味い」と言わせるまでも困難が続くのだ。歩みは遅いかもしれないが、2ケタ勝利到達後、菊池はさらなる高みを目指す。

デイリー新潮編集部

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