処理水を巡る“日本叩き”はガス抜きのため? 習近平指導部の企みはどれも成功しない

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「新下放」運動を起こそうとしているとの憶測も

 中国では「寝そべり族」や卒業写真で「ゾンビポーズ」を撮影するのがブームになるなど、若者の窮状を表すエピソードに事欠かない。最近は「ベッドシェアリング」という言葉もSNS上で話題となっている。大都市では、家賃を払う余裕のない若者が見ず知らずの若者と同じベッドで眠り、家賃を半分ずつ負担しているというのだ(8月22日付BUSINESS INSIDER)。

 そうした涙ぐましい努力にもかかわらず、家賃の高騰などに耐えられない若者が故郷に帰る傾向も強まっている。中国国営メディアによれば、大学卒業後6カ月以内に故郷へ戻った人の割合は昨年が47%、2018年は43%だった。

 中国政府も都市部の若者の農村行きを奨励しようとしているようだ。

 今年2月、人気バラエティー番組「農業をやろう」がオンライン動画配信サービス(OTT)で始まった。人気を博し、直近では中国OTTバラエティー視聴率ランキング2位に浮上している(8月20日付朝鮮日報)。

 文化大革命の当時、「下放(地方に行き、農作業に従事する)」運動に参加した習近平国家主席が「新下放」運動を起こそうとしているとの憶測が広がっている。

 米国との対立が激化する中、習氏は食料安全保障の強化を掲げて耕作地拡大計画を進めているが、喫緊の課題は担い手の確保だ。新下放運動は農村部の担い手確保としてもうってつけだが、農村部に送られた若者が一朝一夕で一人前の農夫になれるわけではない。

「中国政府が進める食料安全保障政策は無謀だ」だとの指摘もあり、農村部に送られた若者は、1950年代から60年代前半にかけて行われた「大躍進」のような辛酸を舐める ことになってしまうのかもしれない。

若者の不満を突破口にして大改革へ?

 習近平指導部は若者との対話を試みようとしているが、その実態を理解していないのではないかと思えてならない。「苦境にいるからこそ1人1人の人格が磨かれるのだ」といった過去の教えが、全く異なる時代に育った若者の心に響かないのは当然だ。

 中国では過去100年間に2度の学生運動があった。1919年の五四運動(抗日、反帝国主義を掲げる学生運動)と1989年の天安門事件だ。後者は武力弾圧による抑え込みで世界から大きく注目された。

 現在の中国政府も世界最先端の監視技術を駆使して、若者の不満に対処するだろう。だが、若者側には、ゼロコロナ政策を廃止に追い込んだ昨年末の「白紙革命」という成功体験がある。

「豊かな生活を提供する代わりに一党支配体制をとる」という、中国共産党と国民の社会契約が失効しつつある。盤石に見える中国の政治体制が、若者の不満が突破口となって大変革を余儀なくされるのは時間の問題ではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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