令和版ムラ社会系ドラマ「ハヤブサ消防団」のとりこに 登場人物全員が疑わしく見える演技力

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 亡くなった作家の坂東眞砂子さんが言っていた。物の怪や獣が出そうな高知の山奥で暮らして、怖くないかと聞いたら「最も怖いのは人間だ」と。彼女の作品『くちぬい』は、平成の時代、閉鎖的な集落で次々起こる村八分よりも陰惨な嫌がらせを描いている。因習やたたりも怖いが、すべては人間の排他的な悪意から……なんてことを思い出させるドラマとはみじんも思ってもいなかった「ハヤブサ消防団」。

 初回から懐かしの昭和・横溝正史風味が漂い、物語が進むにつれ、現代風の「忌避したい状況」がてんこもりでエグみ増量。池井戸潤が描く「令和版ムラ社会系」ドラマのとりことなっている。

 主演は中村倫也。文学賞を受賞し、華々しくデビューしたものの、鳴かず飛ばずでスランプ気味のミステリ作家・三馬太郎の役だ。精神的マッチョでも傍若無人でもない、いい塩梅に弱ってはいるが、やることはやる都会人という役がぴったり。時折カメラ目線で現状や心情を解説するのも、令和的なご愛敬ってことで。

 父が残した家のある岐阜県八百万町が気に入り、移住。放火事件に遭遇し、隼地区の消防団に入り、事件を独自調査することに。

 消防団って、結局集まっては飲んでばっかりだなという点はリアル。実際、夫の友人が消防団だが、何かにつけて飲むらしい。その地域から引っ越しても飲み会には集まるという結束力。

 消防団の面々もバランスよくてね。生瀬勝久(林業)と橋本じゅん(養鶏)がけんかっ早い、火の性質。岡部たかし(呉服屋)と梶原善(公務員)が流し上手な水の性質。この4人のおじさんたちにかわいがられるのが子供のように無邪気な満島真之介。手練れが集結しているだけに、なんだか全員が疑わしく見えちゃうのよね。

 寺当番や燈明当番などの集落独自の持ち回り自治当番も面倒臭そうだが、消防団のボーイズクラブっぷりにもちょっと心がざわつく。

 ざわつくのはそれだけではない。集落で「村八分」状態だった男(一ノ瀬ワタル)が放火事件の犯人といううわさが広まる。うわさを広めているのは、どうやら「土地買収」のために町民を手なずけている太陽光発電の営業マン(うさんくささ炸裂の古川雄大)。

 放火された家は皆、寺に高額寄進したようで(太郎調べ)、住職(麿赤兒)も怪しげ。過去に飛び込み自殺があった渓流沿いをうろつく白髪の女(村岡希美)に寄り添うのが、映像ディレクターの川口春奈。川口は信者を拷問死させた「カルト宗教」の信者という情報を入手したのは、東京の出版社の担当編集者(軽薄で抜け目ない適役・山本耕史)。

 きな臭く禍々しい要素が次から次へと出てきたわけで。別々の事象が、より合わさっていくのが楽しみだ。

 要素としてコミカルな必要悪もいる。町長だ(演じるは久々に小悪党役で顔芸本領発揮の金田明夫)。助成金を愛人と私的に使い込んだが、消防団がそれをネタに、頓挫した町おこしドラマ企画を復活させる。不問でいいのかと疑問は残る。

 倫也は事件を解明できるのか、それとも村八分で追われるか、結末はいかに!?

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年8月31日号掲載

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