自分の親友と不倫する夫を妻はなぜ止めないのか 女ふたりの意地の張り合いに46歳夫は「現実から逃げたい。でも逃げられない」

  • ブックマーク

何かが不自然な彼女の部屋

 あるとき、駅まで送る途中で雨が降ってきた。容子さんの家は、電車で30分ほど。雨はどんどん強くなる。このまま自宅まで送ろうと知之さんは思った。妻に電話をすると、「私もそう言おうと思っていたの。家まで送ってあげて」と言われた。

「容子さんは恐縮していましたが、僕はなんだかうれしかった。容子さんと話していると楽しいから。ものの見方が意外と独特なんですよ。世間の正義に振り回されていない感じがありました。『転勤族だから、どこへ行っても、年齢を重ねても新参者。だからその地域の人たちの“常識”がよくわかった。自分に軸がないと、行った先でどんどん巻き込まれたり悪影響を受けたりしちゃう』と。だから頑固になったかもしれないと笑っていましたけどね」

 転勤族の妻たちも大変だ。夫の同僚や先輩の妻たちとのつきあいにも、うんざりだったと容子さんは語った。だから彼女は独学で常にファッションの勉強をしていた。今はデザインを描いて、ときどき古巣の会社に採用されることもあるそうだ。

「そんな話をしながら彼女の自宅に送っていったら、ますますどしゃ降りがひどくて視界が狭くなっていたんです。彼女が『ちょっと雨宿りしたほうがいいわ。これじゃ危ない』というので自宅に寄らせてもらいました」

 マンション5階の自宅には誰もいなかった。気にしないで、夫は今日は出張だからと容子さんは言った。だが、何かが不自然だった。男性が同居している雰囲気がまったくなかったから。

「彼女は熱いコーヒーを入れてくれました。それを飲みながら、彼女は突然、うふふと笑った。『さっきから不思議そうな顔をしているの、わかってたわ』って。『私ね、離婚したの』というんです。びっくりしました。うちに来ると、いつも『夫は残業だから』『今日は出張だから』とご主人の話をしていたし……。そうだったんだと言うと、『仁美には言えないのよ。知っていると思うけど、私たち夫婦、馴れそめが馴れそめだから。離婚したなんて言ったら応援してくれた仁美に悪くて。私は大恋愛のつもりだったけど、彼は結局、妻に対して引くに引けなくて離婚しただけ。私と結婚しても、元妻とは連絡をとりあっていたみたい』とつぶやくように言って、さみしそうな顔をしました。夫の転勤で戻ってきたわけではなく、離婚して戻ってきた。離婚と相前後してひとり暮らしだった母親が亡くなり、母が暮らしていたマンションに越してきたそうです」

妻と容子さんの“本当の関係”は…

 妻と容子さんは確かに幼いころから仲がよかったが、その裏では単なる仲良しではない「何か」を容子さんが感じることもあったらしい。

「どうやらライバルでもあったみたいですね。仁美は勉強ができた、容子さんは運動ができた。そして容子さんのほうが友だちは多く、人気があった。中学生のころ、仁美は嫉妬して、容子さんの悪口を触れ回ったことがあったそうです。それでも容子さんは仁美を許した。だけど仁美は、やはり何かがくすぶっていたんでしょう。自分が結婚したとき、容子さんにさんざん自慢をしたようです。そのころ容子さんは不倫していた。仁美は容子さんを応援しているふりをしながら、いや、本当に応援していたのかもしれないけど、彼女の気持ちを考えずに自分の結婚話を盛って話していたようです。それで容子さんは仁美との関係を切ろうと思ったけど、期せずして不倫相手と結婚することになった。それを仁美に話したら、『どうせすぐダメになるわよ』と言われたそうです。だからこそ、容子さんは仁美に離婚したとは絶対に言いたくない、と」

 それなら友だちとしてつきあうのをやめればいいと知之さんは言った。だが容子さんは、「癪に障るけど、完全に離れたくない気持ちもある」そうだ。おそらく仁美さんも同じ気持ちなのだろう。愛憎相半ばする恋愛関係のようだ。

次ページ:妻は「私は離婚しないから」

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。