認知症に希望の新薬! 診断を受けた家族に「絶対にやってはいけないこと」とは? 臨床の最前線に立つ医師が徹底解説

ドクター新潮 ライフ

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新薬の効果は?

 ただし今年7月に米国で正式承認されたエーザイの新薬「レカネマブ」を投与する場合は別。この薬は早ければ今秋ごろに日本でも保険適用となる見込みですが、そうなれば、早期にアルツハイマー病であることを確定させる必要が出てきます。

 レカネマブは認知症の進行を3割程度遅らせることができるといわれています。アルツハイマー型は、周囲の助けがないと身の回りのことができなくなる「中等度」まで3~5年ほどで進行することが多いのですが、レカネマブによってその期間を年単位で延ばすことができる可能性があるのです。

 これは、一見微々たる成果とも思えます。でも、例えば50代後半で認知症を発症した人などにとっては、この1~2年は極めて重要な意味を持つ。「子どもが大学を卒業するまでは学費を稼がなければ」「ほったらかしにしてきた女房と旅行がしたい」。理由はさまざまでしょうが、現役終盤で認知症の宣告を受けた人にとって、レカネマブは間違いなく希望の星となるでしょう。

 ただし、レカネマブは1人当たりの年間薬価が数百万円に上るといわれる高額医薬品。多用されると医療保険を圧迫するため、レカネマブを使った保険治療のためにはPETまたは髄液検査を用いた早期確定診断など条件が付される可能性もあります。少し話が長くなってしまいましたが、PET検査を受けるのは、このような必要が生じた場合だけで十分と思われます。

とにかく“覚悟”

 それから、最近は認知症の早期対策法として「軽度認知障害(MCI)」という概念も積極的に用いられるようになっています。“認知症の前段階”“認知症予備軍”などと説明されることもあるMCIですが、認知機能の一部に軽度の障害が生じているものの、自立した生活が送れる点で認知症とは区別されます。

 このMCIは日本全国で約400万人いると推定されています。ただ、必ずしも全員が認知症を発症するわけではありませんから、気にしすぎるのも考え物です。

 極端な例ですが、MCIの診断テストを受けに来た方が「馬鹿馬鹿しい」と真面目に取り組まなければ、テストの成績は悪くなりますからMCIと診断されてしまう。私のところにMCIだと紹介されて来た患者さんでも、明らかに真面目にテストに取り組んでいなかったので、「今度は真面目にやってくださいね」と検査し直すと何も問題が無かったりする。「前日お酒を飲みすぎました」とか「糖尿病の薬を飲み忘れて血糖が不安定です」「うつ病です」といった人もテストの点数が振るわず、MCIと診断されるケースがありますから、患者の体調にも結果が左右される。MCIというのは、その程度の“指標”であって、過信しない方がいい場合もあるのです。

 私は認知症の早期発見に意味があるとすれば、何はさておき「覚悟ができる」ことに尽きると考えています。薬物療法などは二の次で、とにかく本人と家族が病気をきちっと理解し、覚悟を決めることが重要です。

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