カロリー制限よりも「プチ断食」! 朝昼夜で「食べるべき食品」が変化 体内時計を大切にする「時間栄養学」とは?

ドクター新潮 ライフ

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「徹夜」は人間だけのバカな行動

 人間は昼行性の生物です。狩猟などをしていた私たちの祖先は、当然、朝起きて夜寝るという生活をしていました。夜は暗くて狩りなどできません。自ずと、早寝・早起きとなり、絶食時間も確保できる、体内時計に合った生活をしていました。

 ところが人間の大脳新皮質はどんどん発達していきます。そこで道具を生み出し、火や電気を用いることで暗くても起きていられる生活を手に入れました。

 また、大脳新皮質が発達して“賢く”なったことで、人間は体内時計の点から考えると“バカ”な行動をするようになりました。

 例えば徹夜です。夜になれば、主時計の指示で松果体(しょうかたい)というところがメラトニンを出して睡眠を促します。しかし、電気を発明した人間は徹夜して受験勉強などに励むようになりました。希望する学校に合格するために徹夜で勉強するのは“賢い選択”かもしれません。でも、徹夜しているうちにもうメラトニンは出なくなって眠れなくなる。こんな“バカ”な行動をする生物は他にはいません。事実、人間以外で徹夜する昼行性の生き物なんていませんよね。

 このように、生物として当たり前の生活をしていれば問題はないのに、人間は大脳新皮質の発達によって当たり前の生活をしなくなった。だからこそ、時間栄養学を意識して、体内時計に合った生活を心がけなければ肥満やメタボになることを防げないのです。

「月曜病」の正体

 体内時計のリズムを考えると、いま導入が検討され、あるいはすでに一部で始まっている週休3日制は果たしてどうなのでしょうか。

 よく「月曜病」と言います。サラリーマンが週末に家族サービスなどで疲れてしまい、月曜日の朝になかなか起きられず出社してもだるいままといったような“病気”のことですが、これは正しくありません。月曜日に起きられないのは、家族サービスで体が疲れているからではなく、結局のところ家族らと週末に遊んで夜更かしし、体内時計が狂っているからです。

 土日に2日連続で、平日より夜遅くまでスマホやパソコンをいじっていれば、体内時計は平気で3時間くらい後ろにずれてしまいます。これは毎週末、時差が3時間半あるインドに出張して月曜日に帰ってくるようなものです。どれだけしんどいかが分かるでしょう。

 ですので、週休3日制は体内時計のズレを増やすだけで、かえって体調が悪くなり、平日の仕事の効率が落ちることにつながるかもしれないのです。現在、土日も平日と全く変わらないサイクルで過ごせているなら別ですが、果たしてどれだけの人ができているか……。

 従業員の休息を週2日から3日に増やしたら、逆に従業員の健康を損ねてしまった――。体内時計から考えると、こんな本末転倒すら起きかねないのです。

柴田重信(しばたしげのぶ)
広島大学大学院医系科学研究科特任教授。1953年生まれ。九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。ニューヨーク州立大学リサーチアソシエイト、早稲田大学先進理工学部教授などを経て現職に。マウス、ヒトを対象として体内時計と健康に関わる分野の研究を行っている。日本時間栄養学会の会長も務めた。『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門』等の著書がある。

週刊新潮 2023年8月17・24日号掲載

特別読物「『何を』ではなく『いつ』食べるか 朝昼夜で異なる『食と健康』を最良にする『時間栄養学』」より

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