アメリカ経済はリセッション(景気後退)入りしない、は本当か
商業用不動産市場の低迷が金融市場の火種になる?
コロナ禍で定着した米国人の「出社嫌い」も、景気の足を引っ張る要因だ。
在宅勤務の定着などにより、都市部でオフィスビルの余剰感が強まり、商業用不動産市場が苦境に陥っている。
8月に入り、シェアオフィス(複数の企業や個人が共同利用するオフィス)提供企業大手のWeWorkの資金繰りの悪化が明らかになったことで、商業用不動産市場の低迷が金融市場の火種になりつつある。
商業用不動産ローン債権を束ねた証券化商品、商業用不動産ローン担保証券(CMBS)の米国債に対するスプレッド(金利上乗せ幅)は拡大している。
商業用不動産ローンに関連する金融商品は、焦げ付きが心配され始めた。こうした金融商品を多く保有する米国の地方銀行は、リスク軽減を図る観点から、企業向け融資に慎重になっている。FRBによれば、米銀の第2四半期の企業向け融資は3年ぶりの厳しさだという。
コロナ禍の金融緩和で、米国企業の債務は急拡大した。債務残高は昨年末時点で19.9兆ドル(約2900兆円)、GDP比で76.0%。この値はリーマンショック直後(2009年3月末)の73.7%を超えている。
実体経済の悪化から、企業倒産も急増している。今年1~7月の倒産件数は402件と前年比2倍となり、過去10年で最多の水準で推移している。8月9日付の日本経済新聞は、インフレによる需要減と借り入れ負担の増大が、業績低迷の企業に追い打ちをかける事例が目立っていると報じた。
借り入れの主な手段は社債の発行だ。米国のジャンク債(格付けの低い社債)の市場規模は1兆6000億ドル(約230兆円)に上る。デフォルト(債務不履行)が多発するような事態となれば、ジャンク債市場を始め米国の金融市場が動揺する可能性も排除できないだろう。
債券売りが広がり、好調な住宅市場を圧迫
好調さを取り戻したとされる米国の住宅市場にも、暗い影が忍び寄りつつある。
全米抵当貸付協会が8月23日に発表したデータによれば、30年物固定住宅ローン平均 金利は2000年後半以来の高水準となる7.31%に上昇した。
米国の長期金利(10年物国債利回り)が4.3%を突破し、約16年ぶりの高水準となっているからだ。皮肉にも「米国経済が好調」との観測から債券売りが広がり、好調な住宅市場を圧迫している。
ローン金利の上昇で、住宅購入申請数は1995年以来の低水準となり、住宅市場が再び凍り付くのではないかという懸念が生まれている。
また「住宅ローン金利の急上昇のせいでリセッション入りした1980年前後と状況が酷似している」との声もあるようだ(8月18日付Forbes)。住宅ローンの焦げ付きも、金融市場の懸念材料になってしまうのではないかという不安が頭をよぎる。
このように、米国経済のリスク要因は増加の一途を辿っている。年末までにリセッション入りする可能性は高まっているのではないだろうか。
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