「2億円の借金を返すために作家になった」 直木賞作家・山本一力が語った凄絶な貧乏暮らし 「受賞した段階でまだ400万円の借金が」

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「印税で返そう」

 周りからは自己破産も勧められたよ。自己破産なんて聞いたこともなかったから「どういうことだ?」って聞き返したら、「裁判所が認めたら債権者は金を返せと言えなくなる」だとよ。細かいことは分からないが、それは違うだろうと思ったよ。そりゃ相手が金融機関なら、そういうときのために利息も高めに設定してあるんだろう。だけど、俺が借りていたのはほとんどが個人。それを、借りたこちらの都合でチャラにするなんて、俺には無理だ。

 でも、「そんな奇麗ごとを言って、じゃあどう返すんだ?」って聞かれても返す手立てなんてない。それで「物書きになって印税で返そう」って考えたんだ。

「どのみち返ってこねえんだから、やってみたら」

 もともと小説を読むのは好きで、特に好んで読んでいたのがアメリカの小説家、ジョン・グリシャムの作品だった。彼は街の小さな法律家だったんだけど、後に作家になり毎年のようにベストセラーを出して財を成した。彼のことが頭に浮かんで「物書きになれば返せる」、そう直感したんだ。

 当然だけど、債権者たちは俺のその計画を聞いて唖然としていたよ。でも、「どのみち返ってこねえんだから、やってみたら」って。誰もうまくいくわけないと思っていたんだろうが、尋常な手段では返せない額なんだから、ハッタリでもなんでも本気を示すしかなかった。

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