大学生の“大麻逮捕”頻発で「合法化しない日本は時代遅れ」は本当か マトリ元部長は「どの国も<大麻の安全性が確認された>から合法化に踏み切ったわけではない」
カナダにとっての大麻合法化は「苦肉の策」
カナダのトルドー首相は、「大麻の不正取引で、犯罪組織が年60億カナダドル(約5000億円)もの利益を得ているという推計もある。現行法は子どもたちを守るために機能していない」と、嗜好用大麻解禁の正当性を主張し、大麻の合法化に踏み切りました。少々分かりづらいので、経緯について私なりの解説を加えてみます。
・大麻乱用が爆発的に広がり、取り締まりが限界に達している。
・しかも、約60億カナダドルと試算される大麻の密売収益の多くは犯罪組織に流れている。
・大麻はヘロイン、コカイン、覚醒剤等のハードドラッグと比較して有害性が少ない。
・それならば、アルコールやタバコと同じ位置づけで国の管理下に置き、犯罪組織に膨大な資金が流れるのを阻止すべきではないか。
・国が生産と流通を管理することで若者の大麻使用も抑制できる。
・新たな大麻ビジネスを容認する代わりに課税すれば、税収増にも繋がる。
端的に言えば、カナダにとっての大麻合法化は「苦肉の策」なのです。決して、<大麻は健康被害のない薬物>と国が認めた上で、合法化されたわけではありません。「もう蔓延を喰い止める手段が見当たらない。それならば、禁止するのではなく、新たな制度を設けて管理しよう」となったわけです。
実際、合法化を認めた法律にはこう記されています。
<18歳以上には最大30グラムの乾燥大麻の所持を許可する。個人使用目的での栽培も認める。ただし18歳未満の未成年者への販売・譲渡には最大で14年の禁固を科す>
合法化とはいえ、そこには厳しい条件が付されています。合法化ではあっても“自由化”ではないのです。この法律に違反すれば、言うまでもなく処罰の対象になります。日本の大麻取締法では営利(商売)目的で大麻を譲り渡した場合、最高でも懲役7年です。そう考えると、カナダの法定刑がいかに重いか理解してもらえると思います。
“人種問題”も合法化を左右する要因に
同じように、アメリカ・コロラド州が大麻合法化に至った際には、こんな経緯を辿っており、カナダとかなり似通っているのが分かります。
・刑務所が過剰収容で限界に達した。
・取り締まり機関を効率的に運用して、重大犯罪への対応に人員を向けるべきだ。
・大麻ビジネスについては容認する代わりに課税する。
・犯罪組織の大麻密売収益を剥奪する。
さらに、ニューヨーク州は21年3月末、<新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、財政赤字に転落した州の景気対策のひとつとして>大麻合法化に踏み切ったと公表しました。ストレートに“大麻で税収を増やそう”というわけです。税収増を大麻に頼るという発想……、これには少々驚かされました。“財源に組み込まれるともう後戻りできない”と懸念が募ります。
そして、ニューヨークの場合、大麻合法化の背景には別の事情もあります。
それはアメリカ社会に根深く残る人種問題です。アメリカの人権団体の調査によれば大麻を使用している白人と黒人はほぼ同じ割合。ところが、大麻の所持や使用容疑で逮捕された黒人の数は、白人の3倍に上っている。つまりは、大麻を合法化することで黒人の逮捕者が減少し、差別解消に繋がる、と。日本とは犯罪や薬物の情勢、社会背景が全く異なるとはいえ、人種問題が合法化を左右する要因になっていることには複雑な感情を覚えます。
大麻は世界で最も乱用されている薬物で、その使用者数は推定1億9200万人とされています(「国連ワールドドラッグレポート」20年)。そして、世界の大麻押収量の4分の1を北米が占めます。アメリカとカナダの使用者数を合わせると、日本の人口の半分近くに及ぶと推計できます。加えて、アメリカではコカイン、ヘロインといったハードドラッグやオピオイドの問題もあります。取り締まり機関という限られた社会資源で、より重大な課題に対応するためには、大麻を容認せざるを得ない。その上で、容認するならば税収を確保して市民感情を和らげようということです。どの国も、決して<大麻の安全性が確認された>から合法化に踏み切ったわけではないのです。
[2/3ページ]