「得意料理はきんぴら。飯を作ることが精神の安定にもつながる」 主演作が途切れない82歳「藤竜也」が語る仕事と人生
言葉にしないまま、監督と勝負したい
「高野豆腐店の春」で演じた辰雄が、戦争の記憶を持つ役どころであるのも印象深い。
「同世代の辰雄を演じるにあたり、記憶としてはかすかではありますが、自身の戦争体験は力になりました。戦争を後世に伝える役割を担っているとの自覚もある。また、辰雄というキャラクターの設定において、重要な要素の一つだと思います」
藤はこうして、自分なりの役作りを行ってから現場に挑む。監督とは基本的に、演技について話さない。それは日活時代から一貫している。
「現場に入ってからは、僕が作ったキャラクターに任せてもらいます。監督と話すと大事なものがどこかへ行ってしまう気がして。やはり言葉にしないまま、監督と勝負したい。そのやり方が好きですね」
脚本は何度も読む。そのうち自然に台詞が入ってくるのだとか。
「……と言っても、脚本に書かれていないことも結構言っているんですよ(笑)。監督も私も『辰雄さん』に任せているから、『辰雄さん』が勝手に喋る。接続詞的な表現はその時々で変わるし、話す順序が逆になったりもする。私じゃなくて『辰雄さん』が選んでいるようなものだから、私は関与しません(笑)」
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