Netflix並みの製作費は伊達じゃなかった…「VIVANT」が“テレビ離れが進む若者”に人気の秘密
国際標準でつくられている
理由は大きく分けて2つあると見る。まず国際標準に合わせて制作されていること。スケール、テンポ、表現、俳優の演技。筆者は年間500本以上の欧米ドラマを観ているが、いささかも見劣りしない。現地語の字幕を付けたら、このまま海外で流せる。
若者はNetflixなどの配信動画を見慣れているから、スケールが小さくてテンポも遅く、表現は自主規制され、力量不足の俳優も起用される既存の多くの国内ドラマでは物足りないのではないか。
「VIVANT」のファーストシーンはバルカの砂漠を歩く憂助の姿だった。家屋内やオフィス内などの日常の1コマから始まる既存の国内ドラマとは、最初からスケールがまるで違った。「海外の自爆テロに主人公が巻き込まれる」という筋書きのドラマも存在しなかった。
6話では憂助と別人格のFが2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」について言及した。憂助が別班入りした動機につながっている。このスケールも国際標準である。
テンポも速い。1話は2時間の拡大版だったとはいえ、舞台は東京の丸菱、バルカの都市部、砂漠、イスラム教徒集落、日本大使館などめまぐるしく変わった。2話以降も漫然とした展開がない。米映画「インディ・ジョーンズ」シリーズ(1981年~)のようなノンストップ・ムービーに近い。
表現も既存の国内ドラマとは異なる。5話ではテロ集団であるテントのアリ・カーン(山中崇・45)の家族4人を絞首刑にする場面があった。後に生きていることが分かったが、刺激的な場面だった。
6話の放送前には「一部過激な制裁シーンがありますので視聴にはご注意ください」とのテロップが出た。テントの造反者の手首と耳が切られていた場面とは違う、もう1人の裏切り者が斬り殺された場面のことだろう。
さほど過激とは思えなかったが、日本民間放送連盟(民放連)の放送基準が「残虐、悲惨、虐待などの情景を表現する時は、視聴者に嫌悪感を与えないようにする」と定めているため、念のためにテロップを入れたのではないか。
欧米ドラマと比較したら、ずっとソフトな場面だった。2020年まで15年も続いた米国の大ヒットドラマ「クリミナル・マインド」(CBS)には、顔の皮を剥ぐ連続殺人犯や監禁した女子高生にオノで殺し合いをさせる男が登場した。Netflixなどの配信動画にもセンセーショナルな場面がある。
今の時代の国内ドラマはNetflixや海外ドラマと同じ土俵で戦っている。クレームを怖れ、自粛規制を繰り返していたら、とても勝てない。「VIVANT」の監督・脚本・演出を務め、「半沢直樹」(2013年、2020年)でも知られる福澤克雄氏(59)もそう考え、あえて踏み込んだ表現をしていると見る。映像をソフトにするのは簡単なのだ。
堺、テントのリーダーであるノゴーン・ベキ役の役所広司(67)、警視庁公安部外事課の野崎守役の阿部寛(59)ら大物を多く起用したのも、ドラマを国際標準にするためだろう。欧米ドラマは名優が小さな役柄を演じることがよくある。やはり米国で大ヒットした犯罪ドラマ「LAW & ORDERシリーズ」(NBC)にはブルック・シールズ(58)やライザ・ミネリ(77)らが出演した。それによって質が高まる。
福澤氏が約半年後に定年を控えているため、親しい堺らが集まったとドラマ界では見られていたものの、それより大きな理由はドラマの質を上げるために違いない。結果、その通りになり、視聴者を熱中させる要因の1つになっている。
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