永遠の18歳「岡田有希子」と豊田商事事件【メメント・モリな人たち】

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「感情の起伏の激しい子」

 彼女の自殺の背景については、当時、さまざまなことが言われた。翌日の朝日新聞・朝刊社会面によると、自宅マンションには異性関係などを苦にしていたとみられる内容の遺書(便箋1枚)が残されていたとある。きちんとした字で「勝手なことをしてごめんなさい」と書いていたという。

 実はこの日の午前、ユッコは南青山の自宅マンションで左手首を切り、ガス自殺を図ろうとした。だが「ガスの臭いがする」という通報で警察署員らに救出され、近くの病院で手当を受けていた。自殺は病院から事務所に戻った直後だった。付き人と一緒にいたが、目を離した隙に屋上から飛び降りたとみられる。

 当時の記者会見で所属事務所の社長は「仕事も充実していたし、男友だちについても心当たりがない。ただ、感情の起伏の激しい子でした」と沈痛な表情で語っている。5月には新曲を発売する予定だった。

 自殺の理由や背景については、今回あまり触れないでおこう。人の心の内側はそもそも分からないし、岡田本人も分からなかったのではないか。

 彼女の自殺がセンセーショナルに騒がれた当時、全国各地で後追い自殺する人が相次いだ。「ユッコ・シンドローム」という言葉まで生まれ、社会問題になった。「ユッコみたいになりたい」と遺書に自分の思いをつづったり、部屋の机の上に相次ぐ若者の自殺を特集した新聞の社会面が広げてあったり……。2週間ほどで40人を超える若者が命を絶ったといわれている。

 多くの人が不安と絶望の中で孤立していたのだろう。自殺について書かれた本や哲学書を読んだ人も多かったに違いない。

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