「ビールはサイエンス」老舗和菓子屋の21代目が開発したクラフトビール インド進出を果たした成功の秘密とは

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ビールはサイエンス

 鈴木さんはまるでトレジャーハンターのように映るかもしれないが、彼のお宝探しの情熱を支えるのは実はサイエンスだ。

「未知の酵母と出会う旅は続けます。でも、ビールづくりはサイエンスです」

 鈴木さんは「職人の勘」に頼りがちなクラフトビールづくりで勘に頼らない工程管理を徹底している。仕込みや発酵に適した時間、温度を探し出し、数字で管理する。2012年には三重大大学院に入学。樹木から採取する酵母を研究し、博士号も取得した。前述の「HIME WHITE」も大学院での指導を受け、冷蔵保存していた樹液の成分から、酵母を取り出すことに成功した。研究の積み重ねがビールファンをうならせる商品を世に送り出す源泉にある。

 2022年からは東京大学大学院と共同研究を進めている。クラフトビールの世界では複雑な味や香りが求められている。そのひとつの方法として、発酵中に酵母がホップとの接触で特定の香り成分を別の香り成分に変える「バイオトランスフォーメーション」がトレンドになっている。

「この現象をいかにコントロールするかが近年のビール醸造の大きな課題です。東大との研究はその最先端の取り組みになります」

 共同研究では、ゲノム編集技術を使って、酵母の遺伝子に変異を加えることで、狙った香りを引き出すことに成功している。安全性を担保するため、実用化に向けての研究が現在進行中とのことだ。

「宝さがしも面白いですが、同時に科学の進化で狙ってつくれる香りや味もこれから増えていくはずです。不確実性と確実性を併せ持つから、この世界はおもしろいんですね」

 鈴木さんの実家で、伊勢角屋麦酒を手掛ける母体は二軒茶屋餅角屋本店(三重県伊勢市)。お伊勢参りの旅人を相手にした茶店として1575年に創業した。鈴木さんは21代目になるが、今では鈴木さんが立ち上げたビール事業が7割以上を稼ぎ出す。創業約500年、会社をそして鈴木さん自身をこれからどのように「発酵」させるのか。「発酵野郎」から目が離せない。

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