「ビールはサイエンス」老舗和菓子屋の21代目が開発したクラフトビール インド進出を果たした成功の秘密とは

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まだまだアツい夏、クラフトビールが美味い!

 猛暑が続く日本列島。この時期は何といってもビール、誰が何を言おうとビールだ。記録的な猛暑が続くが、暑ければ暑いほどビールは美味い。そして、できることなら美味いビールで喉をうるおしたい。

 そんな人におすすめなのがクラフトビールだ。香りもさまざま、味も豊かでその日の気分で銘柄を選べる。かつては「地ビール」と呼ばれ一過性のブームで終わったが、今では大手スーパーや百貨店の食品売り場に専用コーナーも定着している。

 その中でも「伊勢角屋麦酒」はクラフトビールのファンの間ではおなじみのブランドだ。数々の国際大会で金賞を受賞し、7月にはインドで伊勢角屋ブランドの供給も始まった。国内外からの注目が高まるが、生産者の鈴木成宗さんの口癖は「ビールは飲み物であり、生き物」だという。

 ビールは生き物――とはどういうことか。

 そこには、ビールの主役である酵母に人生を賭けてきた「発酵野郎」こと鈴木さんの夏に負けないアツい思いがある。

酵母の可能性は無限大

 まずは、ビールの成り立ちから説明してもらおう。

「酒、味噌、醤油といった醸造物は、微生物という目に見えない命によってつくられています。いわば微生物の働きによって味も香りもつくられるといっても過言ではありません。もちろん、ビールも同じです」(鈴木さん)

 ビールは水、麦芽、ホップ、そして酵母が主原料だ。どのようなホップと麦芽を使い、また、どの酵母を組み合わせるかがポイントになるが、主役は微生物である酵母だ。これが生き物だけに気まぐれで、動きがおとなしかったのに急に活発になる酵母もあれば、手なずけにくかったのに、いきなり従順になる酵母もあるという。

「ビールに使われる酵母には多くの種類がありますが、世の中に存在するはずの酵母のほんの一部に過ぎません。自然には私たちの想像を超えるようなビールの味わいを生み出す酵母がまだまだ眠っている可能性が高い。どんな面白い酵母がいるのか。それを考えるだけでも、わくわくしますよね」

 地球上には無数の微生物がおり、土壌中、空気中、食品類の中、さらには人体にまで存在するのだが、それを求めて自ら野や山を駆け巡り、酵母を探す人は皆無といっていいだろう。

 実際、多くのビールメーカーはビール醸造用に販売されている酵母を使っている。酵母を樹液などから取り出し、その特性を調べて、ビール造りに必要な発酵特性と美味しさにつながる香気特性を持った酵母を選択し、更にその酵母の安全性を調べる――そんな気の遠くなる作業は効率が悪すぎるからだ。

「野生の酵母を使える確率は砂浜でダイヤモンドを見つけるのと同じくらい大変です。国内では、自ら酵母を採取して培養し、ビールをつくっているブルワーには会ったことがありません」

 ところが、鈴木さんはそんな宝探しに成功してしまった。自ら野や山を駆け巡って、酵母を採取。2014年に伊勢神宮の別宮・倭姫宮の近くの木からとれた酵母を使ったビールを実用化したのである。

 スパイシーな香りが特徴のビール「HIME WHITE(ヒメホワイト)」だ。

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