【韓国ドラマ】配信で見られる“重量級ホラー”4選 「正体不明の黒いマッチョな巨人が……」

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「ガスライティング」がキーワード

 Huluで配信が始まったばかりの「庭のある家」は、サイコホラーという言葉がふさわしい。

 超高級住宅街の豪邸に暮らすトラウマを抱えた人妻ジュランと、小さなアパートの一室で暴力夫と暮らす妊娠中のサンウン。サンウンの夫の不審死をきっかけに知り合った2人は、それぞれ異なる目的で事件の真相を追い始める。

 この作品がサイコホラーと言えるのは、ジュランとサンウンは、それぞれが抱えるトラウマのせいで精神的に不安定で、観客は2人の思考や視点を100%信用することができないためだ。

 特に冒頭の1、2話のジュランは、誰もいないはずの2階から聞こえる物音と人影、裏庭から漂ってくる異臭に憑かれ、奇妙な緊張感と虚ろさを行き来する。見る側は、最後の最後まで彼女を信用できず、何が起きているのかわからず、不気味さと不安がぬぐえない。だが見終わってみると、彼女たちがそんな状態である理由こそがこのドラマの核心だと分かる。

 世界的に大きな問題となっている心理的虐待「ガスライティング」(嫌がらせを行い、被害者が自身の感覚などを疑うように仕向ける手法)は、ここ数年の韓国映画やドラマではしばしば登場するモチーフだ。この作品はそれをうまくサスペンスに利用しており、韓国ドラマの進化と広がりを感じさせる。

 韓国の00年代を代表する美人女優キム・テヒ(43、ドラマ「バイバイ、ママ!」)に加え、ドラマ「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」の悪役で強烈な印象を残したイム・ジヨン(33)が、ここでもすごい怪演を見せてくれる。

謎の巨人と新興宗教の支配

 キリスト教徒数が多い国として知られる韓国は、新興宗教や宗教カルトも非常に多く、しばしば大きな社会問題となっている。そのあたりは、そこらのホラーよりよっぽど怖いNetflixドキュメンタリー「すべては神のために:裏切られた信仰」に詳しいが、新興宗教をネタにした韓国ドラマも多く作られている。

「地獄が呼んでいる」(Netflixで配信中)は、昨今の新興宗教モノでは白眉の一本だ。

 突如現れた「正体不明の黒いマッチョな巨人3人組」が、超高熱で人間を焼き殺すという事件が世界各地で続発。この超常現象を利用して急速に勢力を伸ばした新興宗教が、やがて「神」の名のもとに社会を支配、ディストピアと化してゆく。

 なんといっても最大の見どころは、竜巻のように唐突に現れる巨人のシークエンスだ。「何月何日何時何分にお前は死ぬ」という巨人の予告を受けた人間たちは、逃げ込んだ密室であれ、公衆の面前であれ、予告通りに現れた巨人たちの圧倒的な暴力によってなぶり殺される。

 視聴者が感じる「これは一体なんなんだ……!?」という戸惑いと恐怖は、そのまま登場人物の感情と同じなのだ。これは、例えば「何月何日に巨大台風がくる」というような抗いようのない天災のメタファと言える。

 古来、宗教はそうした理不尽を「神の存在」によって説明するものなのだが、宗教カルトにおいては金と権力を目的に、その恐怖をあおり、狂信者を従えてゆく。熱狂する人々の自警団化、金で動く政治や「触らぬ神に……」というスタンスのマスコミから、冷静な判断が失われてゆく様は、今の日本人にも実感として味わえる底寒さだ。

「地獄が呼んでいる」シーズン2は来年配信の予定だが、想像を超えた驚愕の展開で終了するシーズン1のみでも、重量級の恐怖が味わえるはずだ。

 韓国ドラマでも1、2を争う人気のコンテンツ、ホラーを様々に楽しんで、厳しい残暑を乗り越えてもらいたい。

渥美志保(あつみ・しほ)
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo!オーサー、mi-mollet、ELLEデジタル、Gingerなど連載多数。釜山映画祭を20年にわたり現地取材するなど韓国映画、韓国ドラマなどについての寄稿、インタビュー取材なども多数。著書『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)が発売中。

デイリー新潮編集部

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