慶応「丸田湊斗」、先頭打者本塁打の衝撃…たった1度しかない決勝戦での“サヨナラホームラン”を振り返る

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名将の一言

 両校ががっぷり四つに組み合う。試合は2回表に東邦が1点を先制、東洋大姫路は6回裏に追いついた。そのまま息詰まる投手戦が続き、両者無得点のまま延長戦に突入する。

 10回表、東邦は好機を逸して無得点に終わる。その裏の東洋大姫路の攻撃は、先頭打者が三振に打ち取られた後、峻足の田村敏一がヒットで出塁、次打者が送りバント、ツーアウト一・二塁となる。ここで3番の松本の打順となったが、坂本は敬遠した。満を持して登場したのが、4番を打つ3年生捕手で主将の安井浩二だった。

 高校野球では珍しくないが、投手が3番、捕手が4番とバッテリーが打線の中軸を担っていた。安井は2年の春も甲子園に出ており、4割を超える打率で打ちまくった。ここまでは坂本に抑えられていたが、松本を敬遠され「馬鹿にしやがって」と燃えていた。

 坂本の4球目、きわどい球がボールと判定され、3ボール1ストライク(当時は1ストライク3ボール)。そして坂本が渾身の力を込めた5球目。外角高めの直球を安井が強振すると、打球は右方向へぐんぐん伸びる。東邦のライトが懸命にバックしたがラッキーゾーンに飛び込んだ。呆然とするバンビ坂本。

 打球が筆者の方向に向かってきた時から、大歓声と悲鳴が交錯していた。2人のランナーが狂喜しながらホームイン、最後に安井は両腕を突き上げてジャンプして両足でホームベースを踏みしめた。

 ベンチでの怖い顔が印象的だった梅谷馨監督は、ボールが2球続いたところで「もう少し前に出ろ」と指示。安井はバッターボックスの少し前へ出て構えていた。さすがは甲子園の名将である。

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