韓国で相次ぐ「無差別殺傷事件」の恐怖 犯人の言動から浮かび上がる「異様な犯行動機」とは
2023年7月21日午後2時頃、韓国のポータルサイト「ネイバー」のメインニュースに「新林(シンリム)駅で男性が不特定多数の人に刀を振り回している」という速報が相次いで流れた。
【写真】韓国社会を激震させた2つの「無差別殺傷事件」容疑者の素顔 ほか
当初は誰も事情を飲み込めず、続報を待っていたが、やがて新林駅を歩いていた市民が事件現場を撮影しSNSにアップしたことで、無差別殺人事件が本当に起きたことが一気に広まった。
その映像には、倒れた男性の体に向かって、男が何度も凶器を振り下す姿が映し出されていた。人々は驚愕した。ソウルには防犯カメラがあちこちに設置されていて、警察官も多く、世界的に治安がいいとされている。にもかかわらず、昼下がりの、人通りの多い新林で無差別殺人が発生したのだ。想像しがたいことだった。
容疑者は現場に到着した警察官が銃を突きつけると、笑顔を見せながらこういったという。
「俺の話を聞け。人生は順調ではなく、一生懸命生きようとしたが無理だった。だから、くそみたいな気持ちで殺した」
1990年生まれのチョソン容疑者は、憑りつかれた かのように男性1人を殺害し男性3人にケガを負わせた。幼い頃から貧しい家庭で育ち、祖母と二人暮し。両親とは交流がなかったようだ。今回の事件を起こすまでに凶器傷害や保険詐欺、暴行など、多数の前科があった。
警察の取り調べに対しは「俺が不幸だから他人も不幸にしたかった」と供述したという。容疑者は身長も160センチ程度と小柄で、年齢のわりに老けて見える。「俺より背が高かったり、格好がよかったり、金を持っている同年代の男性に劣等感を感じた」とも話したという。これがターゲットを男性に特定した理由であると推定された。
警察はチョソン容疑者の犯行意図の不純さと行為の残酷性などから、彼の顔と身元を公開した。
今度は「書峴駅事件」が発生し…
“チョソン事件”の衝撃が冷めやらぬ8月3日、こんどは京畿道城南市盆唐区(キョンギド・ソンナムシ・ブンダング)の地下鉄書峴(ソヒョン)駅のデパートで、別の無差別殺人事件が発生した。
この事件でもまずニュース速報が流れ、現場にいた市民が撮影した映像と写真がSNSにあげられることで全容が判明した。映っていたのは、猛暑にもかかわらずフードをかぶり、刀を持った男が人々を追う姿だった。
乗用車に乗った男はまず、高架道路とつながっているデパート入口の歩道を歩いていた通行人を轢いたあとで、店内に入り刀で凶行に及んだ。木曜日午後6時頃という時間だったため、帰宅途中の人びとが被害に遭った。14人の被害者は直ちに救急室に運ばれたが、そのうち車に轢かれた被害者のひとりは脳死状態で死亡した。
2001年生まれのチェ・ウォンジョン容疑者は、精神疾患の診断を受けていたという。中学校のときは国際数学オリンピックで入賞し、成績の優秀な生徒が入学する特殊目的高校を志望していた。しかし、進学に失敗し、学業をあきらめたという。精神疾患の診断を受けてからは配達の仕事をしてきた。彼は事件前、インターネットに旭日旗と刃渡り30センチのナイフの写真を掲載し、「朝鮮人虐殺専用の武力強化に金を使うのは惜しくない」というコメントで犯行を示唆していたという。
事件後に現場周辺を訪れると、被害者を追慕する花が置かれ、「2度とこのようなことが起きないようにしてほしい」と訴える垂れ幕がかかっていた。もはや手遅れの対処だと思うが、書峴駅構内と周辺には警察官の数が増えていた。
最初に触れた“チョソン事件”が起きた新林駅周辺は、ソウルでも犯罪発生率の多い地域で「事件自体は衝撃的だが、場所が意外というわけではない」という反応もあった。新林駅をはじめとする近隣の大林、加里峰洞などの地域は、治安があまりよくないことで知られる。新林は90年代から「貧しい町」「貧民村」のレッテルが貼られ、加里峰洞は中国出身の不法滞在者が多数居住しているため、中国マフィアの犯罪が頻繁に発生していた。マフィア映画などでも舞台として扱われている。
しかし、書峴駅事件は、京畿道で最も裕福な地域として評判が高い盆唐で起きた。駅周辺は中でもいちばんの繁華街だった。さらにその中心であるデパートで無差別殺人事件が起きたのだ。
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