どうして?「夏の甲子園」を視察するスカウトが減っている理由 「一日、誰も来ていない球団があった」
選手たちの将来を見据える鋭い目
もちろん、ドラフトの対象選手が少ないからといって、スカウトは甲子園で仕事をしていないわけではない。下級生はもちろん、3年生で進路が既に決まっている選手にも目を光らせている。
大会5日目の第1試合、東海大熊本星翔(熊本)対浜松開誠館(静岡)。東海大熊本星翔のショート、百崎蒼生がドラフト候補として注目を集めていた試合だが、5回終了時にすれ違ったスカウトは、筆者にこうささやいた。
「浜松開誠館のキャッチャー、新妻恭介は素晴らしいですね。スローイングもバッティングも、(高校球界を代表する捕手である)常葉菊川の鈴木叶よりも、僕はよく見えます。配球やリード面も感性がいい。(新妻は)大学に進むようですが、4年後には大学(球界)を代表するキャッチャーになると思います」(パ・リーグ球団スカウト)
この試合で、新妻は打ってはツーランホームランを含む2安打2打点、守備でも盗塁を刺すなど見事な活躍を見せている。このスカウトのように、将来を見据えて、鋭い目で選手たちがプレーするグラウンドを見つめている。
「僕はもう少し残ります」
また、全ての代表校が出揃った8月12日、球場の外ですれ違った、ある球団のスカウトに、筆者が「(視察は)今日までですか」と声をかけると、「僕はもう少し残ります」という“意外な答え”が返ってきた。一般的にはあまり知られていないかもしれないが、全代表が出揃うと甲子園を後にするスカウトが多いからだ。
理由を聞いてみると、1回戦で、ある投手の登板機会が少なく、もう少し実力を確認したいからだという。ただ、筆者は、この投手は大学に進学するという話を聞いていた。スカウトもこの話を把握していたが、「(急にプロに行きたいと言い出すなど)何かあったら怖いので、自分の中で評価だけはしておこうと思いました」と話していた。
たとえ、熱心に視察したとしても、かつてのような逆指名制度はなく、実際に獲得できるかは分からない。
「自分が担当した選手がプロで活躍できるかどうか、少しでも確率を上げるために、いろいろと動くのがスカウトの仕事だ」(ベテランのスカウト)
熱戦が続く甲子園のグラウンドの裏で、ドラフト候補を巡る “もう一つの戦い”が静かに行われていることを、ぜひ知って頂きたい。
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