どうして?「夏の甲子園」を視察するスカウトが減っている理由 「一日、誰も来ていない球団があった」
必ずしも“注目度が高い大会”とは言えない
夏の甲子園と言えば、アマチュア野球で最大のイベントであり、高校生のドラフト候補にとっては“最大のアピールの場”である。NPB12球団は、基本的に全スカウトが視察に訪れ、目玉と見られる選手には球団幹部が姿を見せることも珍しくない。巨人は、桑田真澄ファーム総監督が甲子園を訪れて話題となった。その一方で、スカウト陣の甲子園視察に“ある変化”が見られる。筆者が甲子園で取材していると、あるスカウトから「昨日、(スカウトが1人も)来てなかった球団がありましたよ」と教えてくれたのだ。【西尾典文/野球ライター】
【写真を見る】今年の甲子園には、巨人の桑田真澄ファーム総監督の姿も
これまでもスタンドの様子を見ていると、全スカウトが揃っていないということがあったが、49代表校全てが出揃う前に、1人も視察に来ないのは、非常に珍しいことである。その日は、対象となる選手がいないということを表していると言えるだろう。
夏の甲子園の注目度は、春の選抜を含めて、他の大会とは比べ物にならないほど高い一方で、スカウト陣にとっては、必ずしも“注目度が高い大会”とは言えない。なぜなら、ドラフト候補として高く評価していても、毎年8月には、大学や社会人に進むことが既に決まっているケースがあり、プロ側としては“対象外”となる選手も多いからだ。
夏の甲子園で1日4試合が開催されても、視察対象の選手がいないカードもあるほか、4試合目の5回終了時点で、大半のスカウトが球場を後にしていることも珍しくない。
甲子園に張り付けない“事情”も
今大会でいえば、大会2日目の8月7日に行われた第4試合の徳島商対愛工大名電戦。徳島商のエース、森煌誠は、今大会ナンバーワン投手と呼ばれていた。だが、スカウト陣は、森が社会人野球に進むという情報を事前につかんでおり、試合の序盤にもかかわらず、席を立つ球団のスカウトも少なくなかった。
「担当スカウトは、甲子園に出るような選手を(各大会や練習試合で)何度もチェック済みです。(ドラフト候補の)評価をすり合わせるために、多くの(スカウトの)目で見ることも必要かもしれませんが、わざわざの他の(地域の)担当スカウトまで(甲子園で)見る必要はないかもしれませんね。今後は、部長や管理職が全チームをチェックして、日によっては担当スカウトが1人か2人いれば十分と考える球団も出てくると思います。特に今年(の夏の甲子園)はピッチャーに有力候補が少なかったので、余計にそう思いましたね」(セ・リーグ球団スカウト)
これに加えて、スカウト陣が甲子園に張り付けない“事情”も出てきている。
ドラフト上位候補として期待される選手が所属する大学が、夏の甲子園の開催期間に、プロアマ交流戦(プロは2軍や3軍)を積極的に実施するようになっている。今年は、青山学院大や明治大、大阪商業大などがこれらの大学にあたる。
スカウト陣にすれば、ドラフト候補がプロ選手を相手にどんなプレーを見せてくれるのか、選手の力量を測るうえで、“絶好のチャンス”で、プロアマ交流戦にスカウトを派遣する必要が出てきている。こうした状況を踏まえると、今後、夏の甲子園に大人数のスカウト陣が集結する光景が珍しい……となることが考えられるだろう。
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