「あなたってけっこう偽善者なのね…」 44歳夫は浮気相手から指摘されて、それまでの価値観がなぜ簡単に壊されたのか
「この人の夫は自分のはずだ」
長女が小学校に入ったのが4年前だ。そしてそのころ、智士さんは恋に落ちた。まさに「落ちた」のだと彼はつぶやくように言った。
「ただ、相手が悪かった。朝美の従姉妹なんです。義母の妹の娘で、ずっと海外生活をしていたんですが、コロナ禍直前に家族で戻ってきた」
海外に留学し、現地で仕事をしていた従姉妹の遙香さんは、当時34歳。現地で知り合った日本人と結婚して4歳の息子がいた。夫の仕事の関係で帰国することになり、彼女はさんざん迷ったが一緒に戻ってきたのだった。
「一家3人でうちにも来たんです。朝美から遙香のことは少し聞いていたけど、会うのは初めてでした。だけど会った瞬間、なんとも言えない衝撃を受けたんです。この人の夫は自分のはずだ、というような感じ。これを言うとおかしな人だと思われそうですが、本当なんです」
彼はそれまで、そんな感覚を得たことがなかったから、自分でも驚き、ろくに挨拶もできなかったらしい。だが実は、遙香さんも同じ感覚に陥っていたとあとからわかった。
「その日はうちで、義父母たちとみんなで食事をしました。義母がケータリングを頼み、お鮨やうなぎなど、さまざまな和食がテーブルに並んでいた。わいわい言いながら食べていたんですが、後片付けをしているときに遙香が僕に『どこかで会ったことあるかしら』と言ってきたんですよ。あるわけない。でも僕もどこかで会った気がすると言いました。そうしたら彼女が廊下に僕を連れ出して、『携帯持ってる?』と。たまたまポケットに入っていたので出すと、LINEを交換しようと言ってすぐにつなげてくれた。彼女は僕にウインクして去っていきました」
ことの展開の早さに彼は呆然とするしかなかった。その晩、朝美さんに、遙香さんはどういう人なのかと聞くと「小さい頃はよく一緒に遊んだわ。気の強い子だった。勉強も運動もできたけど、いつも満たされないように見えたなあ。だから留学すると聞いたとき、よかったと思った。彼女は日本には向いてないもん」と話してくれた。
ほとんど話もしないまま…
だから今後が心配だとも朝美さんは言った。夫はともかく、ものごとをはっきり言い過ぎる遙香さんが日本に馴染めるのか、息子が通う保育園や学校で何か問題でも起こすのではないか、と。
「翌日、すぐに遙香から連絡がありました。今後の相談に乗ってほしいと。でもそれは言い訳だとわかっていた。僕と遙香は、互いに相手が必要だと一目で思ったんです」
その晩、ふたりはホテルのラウンジで待ち合わせた。彼女がすぐに「ふたりきりで話したい」と言ったので、彼はそのまま部屋をとった。
「急な展開すぎるでしょ。ほとんど話もしないままに部屋に行って関係を持ったんです。僕はゆきずりの女性と一夜の関係なんてことさえしたことがありません。でも彼女に対しては、とにかく関係をもたない限り落ち着かなかった。目の前の彼女を見ていると、頭がクラクラしてくるんです。言い方は悪いけど、早く自分のものにしなければと焦っていた。動物的でしたね」
体も心もほしかった。心は時間がかかる、まずは体だ。この体を自分のものにしなければ、一生後悔すると彼は感じたそうだ。
「遙香もそう思っていた。だからふたりきりで話したいと言って、僕が部屋をとらなかったらそのまま帰るつもりだったそうです。『これは運命なのかもね』と彼女は微笑んでいました。僕もそう思った」
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