フマキラー「虫博士」が明かす“最も蚊に刺されない対策”…殺虫剤CMの知られざる苦悩とは

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CM表現の悩み

 ここまでゴキブリが嫌われるとなると、各殺虫剤メーカーが頭を悩ませるのがCM上のゴキブリの表現方法だ。リアルなゴキブリを出すと好感度を高めるための商品が嫌われてしまう。そのため、先端がゴキブリのように見える黒い棒を人間が持ってそれをひっくり返したりしてゴキブリの表現をする。そんな状況下、マイナス85℃のスプレーでゴキブリの動きを止めるフマキラーの「ゴキブリ超凍止ジェット除菌プラス」は、タレントの出川哲朗にゴキブリのコスプレをさせる演出をした。台所に雪を降らせ、出川は踊って喜ぶも、最後は凍って動けなくなる。同社マーケティング部宣伝広報担当の川端美虹さんはこう語る。

「ゴキブリは嫌悪感が強いので、CMでは直接的な表現を避けるとか、演出上も本物を出さずCGや絵にすることが多いです。言葉まで伏せるようになっているケースもあります。弊社でもそのような表現を近年採用してきました」

「ただ、今回の出川さんのゴキブリの表現は受け入れられました。あくまでも憶測ですが、多くの方が親しんでいる出川さんを起用し、ゴキブリ目線で描くことで、嫌悪感を共感に昇華させ、見る人をひきつけたのではないか―それによって表現の壁を越えたと思っています。殺虫剤の効力を伝えるためには、本物の害虫に商品を使用して、結果を伝える手法にこそ納得感があると考えています。商品の効力にこだわりを持っているので、より効力感を伝えたい思いから、リアルなかぶりものを採用し、その効果を表現できたのは強いと思います」

 なるほど。ということは、過去にスキャンダルがあったり、日頃から素行不良が報じられるタレントがゴキブリ役をやっていたら共感はされないということかもしれない。というわけで、嫌われ者のゴキブリ殺虫剤のCMについては、各社とも、自分たちが嫌われないよう考えに考え抜いているのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。最新刊に『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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