夏の甲子園は“不発”もプロは高い評価 九州国際大付・佐倉侠史朗は“未完のスラッガー”

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一歩間違えればホームランや長打が出そうな雰囲気

 高校通算最多本塁打を誇る花巻東(岩手)の佐々木麟太郎、名門・広陵(広島)で1年夏から中軸を任されている真鍋慧と並んで、早くからプロの注目を集めているのが、九州国際大付(福岡)の主砲、佐倉侠史朗だ。1年秋に出場した明治神宮大会では3人が揃ってホームランを放ち、同じ左打ちで、一塁手のスラッガーということもあって、比較されることが多かった。しかし、佐々木と真鍋と比べて、佐倉の高校野球生活は順調だったわけではない。【西尾典文/野球ライター】

 昨年春の選抜では、3試合で4安打を放ったものの全てシングルヒット。続く夏の甲子園でも、チームが初戦で敗れて、4打数1安打に終わっている。新チームではキャプテンに就任しながら昨年秋、今年春は九州大会出場を逃しており、4月には腰を痛めてスタメンを外れる試合もあった。

 今夏の九州国際大付は、何とか激戦の福岡大会を勝ち抜いて、2年連続で甲子園にたどり着くも、初戦の土浦日大(茨城)に0対3で敗れた。佐倉もまた、4打数1安打、シングルヒット1本に終わった。最後の甲子園で、強いインパクトを残すことはできず、ファンにとっては少し物足りなさが残ったかもしれない。

 しかしながら、スカウト陣の佐倉に対する評価は、決して低いものではない。セ・リーグ球団のスカウトは、筆者の取材に対して、次のように解説してくれた。

「今年4月に行われた『U18侍ジャパン代表候補合宿』を視察したのですが、参加していた佐倉は、木製バットでしっかりボールに対応できていて、彼の実力を見直しました。打撃練習(※佐々木は不参加)は、真鍋が目立っていたんですけど、実戦になると、佐倉の方が上でしたね。力任せにバットを振らなくても、スイングは速いですし、コンタクトする能力が高い。打撃に関しては、間違いなく高校生のなかで上位クラスでしょう。今日の試合(土浦日大戦)は、ヒットが一本でしたが、三振した打席(第3打席)以外は内容が良かった。一歩間違えれば、ホームランや長打が出そうな雰囲気は十分でした」

シンブルな構えで、スムーズにバットを振り出す

 前出のスカウトが指摘するように、確かに佐倉のバッティングには“内容”があった。第1打席のレフトフライは、144キロのストレートに少し差し込まれたものの、レフト後方まで運んでいる。第2打席のセカンドライナーは、佐倉が放った強い打球をファーストが弾き、バックアップしたセカンドが好捕したものだ。また、最終回のセンター前ヒットは、強い逆風がなければ、長打となっていた可能性があった。いずれも“紙一重”の内容だったといえるだろう。

 以前の打撃フォームは、体を深く沈み込ませて、無駄な動きも多かったように見えたが、甲子園で見せたフォームは、シンブルな構えで、スムーズにバットを振り出すことができている。

 筆者は、試合後、佐倉にフォームの変化について聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。

「1年生の時は、(体の)重心を下げて、バットを高く上げた構えで、それが独特だったので、話題にしてもらったこともありました。それでも、ホームランはそれなりに打てたんですけど、(打率という面では)『ここぞ』という場面で打てなかったことも多かったです。4番(バッター)として、ホームランも大事なんですけど、大事なところで打つという方が重要な仕事だと考えて、(打撃改造に)取り組んできました。特に、監督の息子さんの楠城コーチ(元楽天・楠城祐介氏)に見てもらいながらやってきて、今の形になりました。完璧に(フォームが)決まっているわけではないですし、バッターとしてまだまだですけど、昔に比べると、打てる率は上がったかなと思います」

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