プロ注目のショートは“名門校”を退学しても諦めなかった…東海大熊本星翔「百崎蒼生」にスカウト陣が熱視線!

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「ファーストストライクから自分のスイングができる」

 試合後、視察したスカウト陣に話を聞くと、百崎を高く評価している。

「積極的なプレーがいいですよね。ファーストストライクから自分のスイングができる。これは、なかなか教えてもできないことだと思います。140キロ以上のボールにしっかり対応していましたし、打撃は、今大会に出場した選手のなかで上位クラスに入るでしょう。守備は、(地方大会で)足を痛めた影響で、本来の動きではなかったようですが、スローイングも悪くありません。走塁もアグレッシブでしたね。ショートを守れて、これほど打てて走れるのは、魅力がありますね」

 筆者は、今大会を含めると、百崎のプレーを見るのは3度目だった。3試合の打撃成績を確認すると、打率.833(12打数、10安打、4二塁打、2四球)、出塁率.857という驚異的な数字を叩き出している。長年、筆者は高校野球を取材しているが、3度見て3度とも、ここまでの結果を残す選手はめったにいない。

 試合後、百崎は涙を流しながら、インタビューが行われる通路に姿を見せた。悔しさをにじませながらも、以下のように語っている。

「(2年生から)東海大熊本星翔に転入させてもらって、本当にお世話になったので、このチームでの野球が終わりだと思うと、涙が止まりませんでした。対外試合に出られなかった期間は本当に苦しい1年間だったんですけど、チームメイトや監督さんやお世話になった方と、甲子園に出られてプレーできたことは本当に楽しかったです。自分でチームを勝ちに導けなかったことは悔しいですし、不甲斐ないですが、仲間とプレーできたことは一生に財産になると思います。一度はもう高校野球ができないと諦めていたので、支えてくれた親や受け入れてくれたチームメイトには本当に感謝しかありません」

「第1打席で勝負が決まるくらいの気持ちで立ちました」

 そして、しっかりとした口調で、自身のプレーを振り返った。

「(入学した)東海大相模でも選抜で優勝した後のレベルの高いチームに入れてもらって、自分が下手だった守備もコーチによく鍛えてもらいました。東海大相模にも感謝しています。(自身のプレーについては)相手の先発の近藤くんが最速149キロを投げて、変化球もいいということだったので、第1打席で勝負が決まるくらいの気持ちで立ちました。自分としては、いつも最初の打席を大事にしていて、相手の投手が良くても、自分が打てばチームにも火がつきます。特に、今日は100%のうちの99%は、ここで出し切るくらいの気持ちで立ちました。結果としてヒットが出て良かったですし、あの1打席目は最高だったと思います。走塁も(東海大)相模の頃に、隙があったら狙うということは教わっていたので、それを甲子園で出すことができました。(1試合トータルでは)バッティングも守備も上手くできないところもありましたが、本当に楽しくプレーできて良かったです」

 インタビューのなかで、度々聞かれたのは、「感謝」と「楽しくプレーできた」という言葉。退学した東海大相模に対しても「感謝」の言葉を口にし、その経験を生かせたと話せるのは、人間的な成長があったからではないだろうか。インタビューの冒頭は少し話すトーンが暗かったものの、高校生活を振り返る話になると、徐々に晴れやかな口調になっていったのも印象的だった。

 注目される今後の進路については「プロ野球選手になりたいという気持ちは小さい頃から変わりません。(プロ志望届を出すかについては)これからしっかり考えて決めていきたいと思います」と話すにとどまったが、関係者の話では、プロ志望届を提出する可能性が高いと見られている。そうなれば、今秋のドラフト会議で注目選手の1人になることは間違いないだろう。

 大きな挫折を乗り越えた人間は強さを増すと言われるが、プレーからも話しぶりからもそれがよく伝わってきた。次のステージでも、その強さを十分に発揮し、多くのファンを魅了するプレーを見せてほしい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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