ジェンダーレストイレ問題はタイでも… 「外ではできるだけ尿意を我慢する」レディボーイたちの本音

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トイレをめぐる生の声は…

 寛容な社会ゆえ、わざわざジェンダーレスのトイレを設置しなくても済んできたのかもしれない。しかしタイのLGBTQ、そのなかでも多いガトゥーイは、やはりトイレ問題を抱えていた。何人かのガトゥーイに訊いてみた。

「女装のまま男性トイレに入ったことがある。そこにいた男性から、つま先から頭まで舐めるように見られました。少し怖かった」

「問題は学校のトイレ。タイの学校では女装は許されないから。早く社会に出る人が多いんです。社会に出れば、女性用トイレを使えば問題ないから」

「会社の同僚は、女性も男性も、私が女性用トイレに入ることを気にしない。でも、トイレのなかで知らない女性と会うとプレッシャーを感じる。ジェンダーレストイレならきっと問題がなくなる」

「女性用トイレに入るために女装に磨きをかけないといけない。私は喉ぼとけをとる手術を受けた。それとホルモン注射。男装をしている時でも、本当は女性用トイレに行きたい。だから家を出ると、できるだけオシッコは我慢する」

「男性用トイレに入ると気分が悪くなる。話すとガトゥーイだとわかるから、できるだけ人がいないトイレを探します」

 2年ほど前、バンコクでもLGBTQの人たちによる政府への抗議集会があったが、ほとんど話題にならなかった。前出の日本人のゲイのNさんはこういう。

「年のせいもあるけど、このままでいいと思う。性的なマイノリティをあまり気にしないタイ人が好きだし、私は彼らに救われましたから」

 日本で起きたジェンダーレストイレの裁判を知るタイ人はほとんどいなかった。

(取材協力:ボクラニ)

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。近著に『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)。

デイリー新潮編集部

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