藤井七冠が佐々木七段に敗れる 対局直後、悔しさの中で見せた「藤井流」の振る舞い

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 将棋の王位戦七番勝負(主催・新聞三社連合)の第4局が、8月15~16日、佐賀県嬉野市の温泉旅館・和多屋別荘で行われ、カド番だった挑戦者の佐々木大地七段(28)が85手の短手数で藤井聡太七冠(21)に完勝、一矢を報いた。王位戦4連覇を狙う藤井の3勝1敗で迎える第5局は、8月22~23日に徳島県徳島市の料亭・渭水苑で行われる。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

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藤井の飛車が危なくなる

 先手の佐々木は飛車先の歩を進める「相掛かり」で、藤井も同様に応対した。双方、玉をがっちり囲うことはしない。1日目はゆっくりしたペースで進み、互いに長考を重ねた。31手目に佐々木が藤井の浮き飛車に金をぶつけたところで、封じ手となった。

 藤井が飛車を捨てて佐々木の「7九」の銀を取り込んで勝負を賭けるかと思われたが、2日目の朝、立会人の中田功八段(56)が開封した封じ手は「5五」に飛車を逃がす地味な手だった。これに対して佐々木が99分の大長考の末、「4八金」と飛車の成り込みに備えた。その後は激しい戦いはなく、互いに自陣を強固にするような指し手が続いた。

 藤井の飛車は、なかなか佐々木陣に切り込むチャンスがない。ABEMAで解説していた中川大輔八段(55)が「いつまでも浮いている飛車は取られやすく危ないですよ」と懸念していた通り、次第に藤井の飛車が危なくなる。佐々木が49手目に「4五角」として飛車の捕獲に出る。

佐々木の見事な「詰将棋正答」

 藤井は角交換を迫って凌ぐなどの攻防が見られたが、結局、飛車角の大ゴマがゼロの状態に追い込まれる。中川八段も「藤井王位は大ゴマがなく、小技しかできない。かなり佐々木さんがいいですね」と見ていた。

 藤井は2枚の桂馬を使い、歩が成り込んだ「と金」と「成桂」と合わせて攻めに行くが、佐々木玉はスタコラと逃げて届かない。

 佐々木は81手目に藤井玉の尻に「4一銀」を打ち込んで圧力をかけた。「6一」の飛車と連携しての攻めだ。

 普通、玉の横にいる金を取り込んでじっくり攻めて行く手が見えるが、佐々木は「5三角」と王手を打ち込んだ。藤井は玉で取るしかないが、これが見事な一手。玉が前にある歩の周りを一周して逃げた末に討ち死にする即詰みだった。佐々木は最後まで冴えわたっていた。この即詰みが藤井に読めないはずはない。藤井はうなだれ、盤に手をかざして投了した。

 棋譜に詳しい中川八段は「古典的な詰将棋ですね。私も気づかなかった」と感心していた。詰将棋は大ゴマを大胆に捨てるのが正解であることが多い。投了図の1手前は、そのまま詰将棋の問題にできるような図だった。

 中川八段は佐々木について「辛抱の手と鮮やかな手、両方が出た素晴らしい将棋」と称賛した。

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