パンダの赤ちゃんは「シッポに水筒がついている」 知ってるようで知らない「パンダ」の常識【動物園でもできる「夏休みの自由研究」】
2023年春、話題になった相次ぐパンダたちの中国への旅立ち。でも、まだ日本に暮らすパンダは健在。
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2023年2月21日に上野動物園のシャンシャン、同じく22日にアドベンチャーワールドの永明(えいめい)・桜浜(おうひん)・桃浜(とうひん)が中国に旅立ったのは記憶に新しい。寂しく思ったものの、日本にはまだ、9頭もパンダが暮らしている。東京・上野動物園のシンシン、リーリー、そして双子のシャオシャオとレイレイ。兵庫・神戸市立王子動物園にはタンタン。和歌山・アドベンチャーワールドには良浜(らうひん)、結浜(ゆいひん)、彩浜(さいひん)、楓浜(ふうひん)、だ。
動物園の人気者のパンダだが、実は世界三大珍獣に数えられるミステリアスな動物(他はコビトカバとオカピ)。でも、会いにさえ出かければ、間近で写真も撮れるし、好きなだけ見て観察できる。
「今さら、パンダか」と思ったあなたに質問――「パンダの白と黒の部位を正しく言えますか?」。答えは『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』(アドベンチャーワールド「パンダチーム」・著/新潮社)から。
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白と黒にはわけがある
ジャイアントパンダ(以下、パンダ)といえば白と黒。一番の特徴ともいえるこの毛色には、理由があるのです。
ところで、みなさんは、パンダの白い部分と黒い部分を正確に言うことができますか? 耳、目の周りが黒。そして背中から前肢、胸にかけて黒(胸の真ん中だけ途切れるパンダもいます)。後ろ肢は各付け根から下が黒。しっぽは白いんです。
さて、理由には次の3点が考えられます。
(1)敵に警戒心を起こさせる
(2)温度調節に役立つ
(3)周囲に溶け込む保護色
順番に見ていきましょう。
(1)に関しては、私たちが「アイパッチ」と呼んでいる目の周りの黒い色。パンダの眼球の色は黒褐色で、とても小さいのですが、アイパッチがあることにより、とても大きな目のように見えて相手を驚かせるのです。
どこを見ているかわかりづらい反面、遠く離れた相手には「お前のことを見ているぞ!」とも感じさせるんですね。また、目がとても大きいと見せかけることによって、急所でもある本来の瞳に、直接の攻撃をされにくいとも考えられます。
次に、(2)については、四本の肢と耳の黒で説明できます。パンダの主な生息地は中国四川(しせん)省・陝西(せんせい)省・甘粛(かんしゅく)省(かつてはベトナムやミャンマーの北部にも生息していたと考えられています)。標高が1200~3400mの山岳部の竹林で、平地より寒冷な環境です。人もそうですが、寒い時、体の末端は他に比べて冷たくなりやすいですね。パンダも同じ。そこで耳や肢先を黒にして、熱吸収をよくしているのです。背中にも黒い部分が回っているのも、太陽の熱を受けやすくするためでしょう。ちなみに、足の裏は指の肉球部分以外には黒い毛がみっしり生えています。
そして(3)。パンダが生息しているのは霜が降りたり、雪が降って積もることが多い環境。白はその雪に紛れ、黒い部分が岩陰や樹木の陰に同化して、カムフラージュになるのです。また、竹林では白い部分と黒い部分が別々に紛れて、見分けがつきにくくなります。
生息地の環境で外敵といえばユキヒョウ、ジャッカル、アジアゴールデンキャットなどの肉食獣。赤ちゃんだけでなく、ケガをしたりして弱ったおとなのパンダも狙われやすいので、気づかれないようにすることが必要です。
生息地の山岳部は夏も比較的低温で、冬はマイナス10度を下回ることもあるといいます。そのため、パンダは寒さよりも暑さのほうが苦手で、冷たい氷や雪が大好きです。
アドベンチャーワールドがある和歌山・白浜は温暖な気候なので、冬でも氷点下まで気温が下がることはあまりありません。真冬でも屋外の運動場で元気に過ごします。逆に外気温が20~25度になると、様子をみながら冷房の効いた屋内で過ごせるようにしています。ちなみに、パンダラブの屋内運動場は、9台のエアコン完備です。
誕生日やイベントには、大きな氷や雪をプレゼントすることがあります。手に持って抱きしめたり、おもちゃにして遊び、たっぷり楽しんだ後は、体をびちょびちょにして満足げにバックヤードに帰っていきます。
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日本にいるパンダは、「ブリーディングローン制度」という仕組みで、繁殖を目的として、中国から借り受けている。東京、神戸、和歌山と住む場所はちがっても、パンダの生態に変わりはないわけで、およそ日本在住のパンダすべてに当てはまる知識が満載なのが同書だ。
さて、次の質問。「パンダが生まれる時に持ってくるものとは何?」
答えは……。
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赤ちゃんは水筒をもって生まれてくる
とても小さく未熟に生まれてくる赤ちゃんですが、生きていくために最低限のものは備えています。
まずは、大きな声で鳴く力。産み落とされた小さな小さな赤ちゃんを、体が大きくて小回りが利かず、まして視力もよくないお母さんが確実に見つけてくれるには、とにかく鳴いて「ここだよ!」と知らせなくてはいけません。生まれてすぐ、小さな体からは信じられないような大きな声で鳴きます。
大きな鳴き声――これは、赤ちゃん自身が生きるための武器でもあります。人間もそうですが、おなかが空いた、寒い、うんちがしたい……どんな要求も、赤ちゃんには泣いてお母さんに知らせるしかありません。さらにいうと、だからこそ、パンダのお母さんは「赤ちゃんが鳴かない」=「すべてに満足した状態」と思ってしまいます。すると、お世話はしなくていいんだな、と勘違いするのです。つまり、大きな声で鳴かなければ、赤ちゃんは命の危険にさらされてしまいます。
また、赤ちゃんはまだ4本の肢で立てませんが、頭を振り前肢をふんばってとてもよく動きます。これも目立つようにするアピールでしょう。
そうして自分の居場所を教えて、お母さんが無事に抱いてくれたら、今度はなにより大事なおっぱいです。
赤ちゃんの口は、小さな体にしてはとても大きく開きます。大きなお母さんの大きな乳首をふくむためです。
パンダの乳首は胸にふたつ、おなかにふたつ。全部で4つが離れてあります。
お母さんは抱っこしている赤ちゃんが、おなかが空いたと鳴いたら乳首まで押しやってくれますが、最後は自力で乳首までたどり着かなくてはなりません。そのために必要な、お母さんの体毛に引っ掛けて移動するための小さいけれども鋭いしっかりした爪。これも生まれたときから生えそろっています。爪を立てて毛皮の上を移動しながら、4つの乳首の間を動きます。
そして、もうひとつ。
赤ちゃんは体に比べてしっぽがとても長く、全長の3分の1ほどあります。
生まれたばかりの赤ちゃんはしっぽにたくさんの水分を蓄えて、太く光沢があります。成長とともにしっぽの根元からは細くなり、3日齢頃にはしっぽの先のみ光沢が残り、徐々に消失します。
このことから、しっぽは一時的な補水の役目――いってみれば、「水筒」になっていると考えられます。ペンギンやダチョウのヒナの足も水分を含んでプヨプヨしていますが、これも同じ理由でしょう。
パンダは体が大きく成長してもしっぽは15センチほど、体毛におおわれた短いずんぐりしたしっぽになります。
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ほかにも、前脚には5本の指に加えて「第6」「第7」の指がある、実は何種類もの鳴き声で鳴く、今は竹が主食だが先祖は肉食、走ると時速30キロ……などなど、知れば周りにも話したくなるネタの宝庫。知ってるようで知らないパンダの不思議な生態に、ますますパンダが好きになるかも!
※『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』から一部を引用、再構成。